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romaks-tanのお話

@romaks_tan_prv でモーメントが使えないため、こちらにお話をまとめています

濵田崇裕×小瀧望「雪に願いを」 @H×K

 

(望Side)

 

「お疲れ様でしたー。」

「お疲れさまでした!お先に失礼します!」

 

仕事終わりの帰り道。

マフラーや手袋をしてる人を見ない日はないほど、寒い日が続いてる。

冬やなぁ、って感じる瞬間。

俺もマフラーに顔を埋めて歩いている。

でもそれだけじゃ足りひんから、両ポケットにカイロも入ってる。

充電式のヤツ。

寒いの嫌いなんやもん。

できる防寒は全部してる。

それでも寒い。

やから冬は人肌が恋しい季節って言うんやろうな。

 

「あれ、小瀧君じゃない?」

「え?」

すれ違った人たちの声が聞こえる。

そうやって気づかれることも多くなった。

声をかけてもらったときはちゃんと対応する。

でも、そうじゃないときは無視。

俺も寒いもん。

余計なことはすんな、って言われてるし。

みんながみんなええ人でもないんやぞ!って。

俺、まだそんな悪い人には出会ってないけど。

 

・・・にしても寒い。

 

「はぁ・・・」

零れたため息でさえ、白くかたどられてゆく。

それがいっそう、街を凍えさせる。

痛いほど冷たい風を避けようと、人々は自然と下を向いて歩く。

 

「もったいないよなぁ。こんなにも周りにいろんなものがあんのに、みんな下向いて。」

 

いつやったか、君が言った言葉。

君が下を向いてることはほとんどなかった。

たとえ、こんな寒い日でも。

 

「あの服かわいいなぁ。望、似合うんちゃう?」

昼間はショーウィンドウを眺めていたり。

「うわっ!ようあんな高いところ上らはるな!」

高いビルの窓ふきの様子を眺めていたり。

「今日、スーパームーンって言うらしいで?」

夜は夜空を眺めていたり。

 

下を向いてたら見えへんかったものを君は教えてくれた。

職業柄、っていうのもあるかもしれへんけど、君が目をつけるところは俺と同じようで少し違う。

いや、俺というか、ほとんどの人と。

 

下を向いて歩く俺らと、上を見て歩く君。

白い息を吐くのは一緒やのに、見えているものは違う。

見ようとしてるものが違う。

それが不思議で、もっと知りたくて。

 

思えば、出会ってから君のことを好きやったのは俺だけやったのかもしれへん。

君にとっての俺がどんな存在やったのか、なんて、知らん。

知りたいけど、もう君が隣におらん今、そんなこと不可能で。

気づけば、俺も街行くほかの人と同じように、下を向いて歩いていた。

 

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(崇裕Side)

 

「うん。さすが、濵田君!これやったら次も連載OKもらえると思うわ。」

「ありがとうございます。」

 

ようやく、ようやく仕事が軌道に乗り出した。

何度も何度も書き直して、ようやく手に入れた短期連載。

雑誌の端っこに載る小さいヤツ。

でも、俺にとってはそれはとても大きいことで。

それがまた、次もあるなんて。

これやったら軌道に乗ったって言ってもええやろ?

 

「また、連絡するしね?」

「はい。失礼します。」

あったかい編集部を出て、痛いほど冷たい風が吹く外に出る。

 

「濵ちゃん、お疲れ!」

そんな声が聞こえた気がして振り返る。

でも、そこには誰もおらん。

ただ、忙しそうにしてる人たちが下を向いて歩いてるだけ。

その間を刺すように冷たい風が吹き抜ける。

 

目に映るこの景色の中に、君はいない。

 

さっきまであったかかったはずの心はどんどん外の温度と同化していく。

いつもよりその速度が速いのは、そばにマフラーに顔を埋めた君がいないせいかな?

なんて。

 

「なぁ、寒いし早よ帰ろ?」

人一倍寒いのが苦手な君。

マフラーはもちろん、両ポケットにカイロも完備していて。

わざとそこに冷え切った手を突っ込んでは怒られて。

 

「濵ちゃん、手冷たい!あったかくして!」

そうやってちょっと怒った君がかわいくて。

 

そんな去年と同じようになんてとても笑えそうにない。

 

「はぁ・・・」

空を見上げて零したため息は、白く形を変えて消えていく。

代わりに、空から白い雪が降ってきた。

でも、それにほとんどの人が気づいてない。

すたすたと速足で歩くから。

下を向きながら歩いてるから。

少し上を向けば、こんなにも綺麗な景色が広がってるのに。

もったいない。

君も、また下を向いて歩いてるんかな?

こんなにも綺麗な景色を、君は知らずに過ごしてるんかな?

 

頭を埋め尽くす君への想いを振り払って家路を急いだ。

 

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(望Side)

 

「ママー!雪!」

近所の公園で子どもが楽しそうにはしゃぐ姿が目に映った。

それは最近よく降ってるようなすぐ解けてしまう感じの雪じゃなくて、これから積もりそうな、しっかりした雪。

そりゃ、今日寒いわけや。

君ならきっと、上から雪が降る様子を眺めながら楽しそうに笑うんやろう。

寒さなんて忘れてしまうくらいに明るい笑顔で。

 

「雪の結晶って見たことある?」

俺よりも年上やなんて信じられへんような無邪気な笑顔で。

 

「花みたいにめっちゃ綺麗なんやで?」

ちょっとドヤ顔までしちゃったりして。

 

「あ!白いはなって良くない?」

思いついたことはすぐにメモする。

それは君の職業病みたいなもん。

その時も、いつものメモ帳にすぐにペンを走らせてた。

書かれたメモを覗いてみる。

 

”白い華”

 

「はな、漢字ちゃうで?」

「ええの。こっちの方がかっこええやろ?」

そう笑ってたっけ。

 

君がもし、この雪を表現するなら。

きっと、

 

”うつむきながら歩いている人々の方に降る華”

 

とでも表現するに違いない。

うん。

君の文章は数えるほどしか読んだことないけど、わかる。

君のことやから。

 

「積もるかな?積もるかな?」

はしゃぐ子どもの声が聞こえる。

 

積もるかもなぁ。

しっかりしてるし。

そしたらあの子は何するんやろう?

雪だるまでも作るんかな?

それとも雪合戦かな?

あ、かまくら作るとか?

 

そういえば、君とも小さい雪だるまを作ったことがあったなぁ。

ベランダに少しだけ積もった雪で小さい雪だるまを作って。

あまりにも小さいからすぐ解けちゃったけど。

 

「雪って、なんか儚いなぁ。」

また1つ、俺にはなかった感覚を教えてくれて。

思い出せば思い出すほど苦しくなる。

 

それでも思い出してしまうのは、俺が女々しいから?

それとも、君があまりにも突然、俺の前から姿を消したから?

 

それくらい君は俺にとって大切な存在やったのに。

そんなこと考えても、君からの返事はない。

わかってる。

こんなこと考えてたって無駄、やんな。

 

そっと肩に降った華を払い落として家に向かった。

 

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(崇裕Side)

 

「ただいま。」

当然、返事はない。

電気も自分でつけやなアカン。

朝、慌てて飛び出した部屋は1ミリも片付いてない。

家を出たときと、何も変わってない。

 

「濵ちゃん、おかえり!」

そんな声が聞こえたあの日は・・・

 

「また寝坊したやろ?」

帰る前にもう部屋が明るかったあの日は・・・

 

「この辺片付けといたで?」

朝出たときよりも綺麗な部屋になっていたあの日は・・・

 

どれも、もう戻ってこない。

 

 わかってる。

そんなん、とっくにわかってる。

だって、俺から手放したんやもん。

そりゃそうやん。

今さら俺からなんか言うなんて、間違ってる。

 

「あー、アカン!」

気づけば君のことを考えてしまうこの頭をどうにかしたい。

気分を変えようと、散らかった机の上からテレビのリモコンを取ってボタンを押した。

 

タイミングがいいのか悪いのか。

そこにはついさっきまで俺の思考を独占していた人がいた。

 

「小瀧さんは、今回の撮影でどのようなところに苦労されましたか?」

「そうですね・・・やっぱり原作がある話やったんで、そこに忠実にやるのが大変でしたね。」

立ち位置は真ん中より少し外側。

でも、その位置は前に俺が見た時よりも真ん中に近づいていて。

 

「俺、演技の仕事がしたいと思ってんねん。」

 

いつやったか、君が真剣な眼差しで語ってくれたことがあった。

決して簡単に叶えられるわけじゃない、君の夢。

でも、君にならできる気がした。

根拠?

君やから、かな。

 

「いつか、濵ちゃんが書いた話で主演がやりたい。」

 

少しずつ大きくなる君の夢に、俺もたくさん励まされた。

君のために頑張ろうと思えた。

君がおらんかったら。

確実に俺は今、こんなとこにおらん。

でも、そんな君の夢の足を引っ張っていたのは俺やった。

 

どんどん前へ進んでいく君と、

同じ場所で足踏みし続ける俺。

 

どう見ても、俺じゃ君の隣なんて似合わない。

それでも君の隣に居続けたのは、あの真剣な眼差しが忘れられへんかったから。

今もまだ、その夢を持ってくれているのか、なんてわからへん。

でも、もしまだ俺に、その夢を手伝う資格があるのなら、この冬空に舞う雪に願いをかけさせてほしい。

 

君が・・・ こんなにも、こんなにも愛している君が、どうかその場所に俺がたどり着くまで待っていてくれますように、と。

 

「もう、小瀧に近づかんといてもらえますか?」

 

仕事からの帰り道。

君は遅くまで仕事がある、と朝に言っていた。

なのに、俺の目の前には君のマネージャーさんがいて。

突然、いつもの日常を大きく変えた。

 

「なんで、」

「あの子は今、問題を抱えてはいけないんです。あなたも、あの子との関係が世間に知れ渡ったら、あの子にどんな影響が出るか。それくらいわかりますよね?」

 

そんなことない。

そう言えたらよかったのに。

俺には何も言い返せへんかった。

 

君の夢に俺は必要やと思ってた。

足は引っ張るし、君の隣はまだまだ遠い。

それでもいつか追いつける。

やから、俺は君と一緒におらなアカン。

勝手にそう思ってた。

 

でも、違った。

君の夢に、俺は邪魔やった。

一緒におるなんて、許されへんかった。

 

「もう、あの子の近くにはスキャンダルを狙う週刊誌の記者がいます。 今はまだ、あなたのことをただの友達と思っているとは思いますが、バレるのも時間の問題でしょう。 どうか、あの子のためにも、お願いします。」

 

君のためにこの人が頭を下げてるなんて、君は知らない。

何も、知らない。

知らんくていい。

君が俺なんかのためにその夢を諦めるなんて、絶対にアカン。

むしろ、もっと遠くへ、高くへ飛びだたないと。

そのためには、俺が邪魔をするなんて、許されへん。

 

次の日、俺は君が留守の間に君の家に行って自分の荷物を持ち帰った。

代わりに、君が俺の家に置いていった荷物を持ってきた。

たった1枚の紙きれをテーブルの上に残して。

いつものように合鍵を郵便受けに入れて。

君の連絡先を携帯から消して。

俺は、君から離れると決めた。

 

この決断が間違ってたなんて、思わへん。

思わんけど、後悔とは違う苦しみが心を締め付ける。

もう、君の中から俺という存在は消えてしまったんかな、とか。

考えるだけで心がギューっとなる。

 

やからかな。

窓に映る、街を静かに白く染めるこの雪が君にも届けと。

この冬空に舞う雪にかけた俺の願いが君にも届けと。

まだ、君の中から俺という存在を消さんといて、と。

 

今日もまた、強く祈ってしまう。

 

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(望Side)

 

「ただいまー。」

「おかえり。」

 

そんな風に返してくれる声はいつの間にかなくなった。

君がいつでも使えるように、と入れていた合鍵も、もう郵便受けには入ってない。

必要ないから。

この部屋に入るのは俺だけ。

それ以外は誰もおらん。

そんな俺も最近はこの部屋に帰ること自体減ってしまった。

おかげで、部屋は汚くもならへん。

いつも物だらけやった君の部屋とは正反対。

 

もう何年も使ってるストーブの電源を入れて冷えた部屋を暖める。

部屋があったかくなるまではブランケットを羽織って。

 

「望、寒がりやから、これあったら便利やろ?」

なんて言って君が買ってきてくれたヤツ。

俺の家には前からそれくらいある。

でも、それは俺の家用じゃない。

君の家に行ったとき用。

君の家に置いた数ある俺の物のうちの1つ。

使ってたのは俺ばっかりやのに、それからほのかに香るのは君の匂い。

優しくて、あったかくて、俺にはない、君の匂い。

 

”今の俺じゃ、望の夢の邪魔になる。 やから、少し離れよう。”

 

たったこれだけ。

最後に君が残した俺へのメッセージ。

 

邪魔ってなんなん?

そんなわけないやん。

むしろ、俺には君が必要やのに。

君にはそれを伝えていたつもりやったのに。

君にはそれが伝わっていなかったということが、悲しかった。

 

「小瀧君、打ち合わせしたいからちょっと編集部の方寄ってくれる?」

「あ、はい!わかりました!」

 

街で声をかけられて始めたモデルの仕事。

そこそこ有名なファッション誌。

厳しいことばっかりやと思ってたけど、そこには楽しいこともいっぱいあった。

気づけば、すっかりハマってた。

自分の載ってるページも少しずつやけど、大きくなって。

ページ数だって増えて。

それまでなんとなくで生きてた俺に、やりがいみたいなんを教えてくれた。

 

「じゃ、行こうか。」

いつもは撮影所だけやけど、たまにこうして編集部の方にも来る。

すっごい大きい会社で、確かこの雑誌の編集部は10階とか。

来客用のネームプレートみたいなんを首から下げてエレベーターに乗り込む。

 

「あ、すみません!」

扉の閉まるギリギリで誰かが乗ってきた。

その人は大切そうに原稿用紙を抱えていた。

持ち込み、とか言うやつかな?

 

「ありがとうございます。」

そう言って少し笑った。

その笑顔だけで、この人はいい人なんやってわかるほど、優しい笑顔やった。

 

案の定、その人は小説とかの編集をしている階で降りて行った。

 

1枚、原稿を落として。

 

「あっ!」

拾って手渡そうと前を見れば、もう扉は閉まっていた。

 

「これ、今の人のですよね?」

「そう、やな・・・」

「俺、渡しに行ってきます。」

「へ?小瀧君?!」

降りる予定ではなかった次の階で降り、階段で下に戻る。

 

「どこ行ったんやろ・・・?」

その階はもちろん、俺は降りたことのない場所。

しかも、広い。

そこら中に人がいる。

でも、これは届やんと。

たぶん、っていうか絶対これは大事なもんやもん。

 

うーん・・・

小説の最後、とかかな?

何の話なんか、このページだけじゃ全然わからへん。

でも、なんかこの人の使う日本語はすごい綺麗やった。

文字だけでこんな気持ちになれるんや、って思ったりして。

 

「あ、いた!」

少し奥にある机のところで立ち上がっているその人の姿が見えた。

 

「あの!これ、落としましたよね?」

急いでそっちまで行って声をかけた。

「あ!ありがとうございます!助かりました!!」

「あれ?望?」

 

何の偶然なんか、そこにいたのは俺の近所に住んでるお兄ちゃんみたいな人で。

 

「え?淳太君?なんで?」

「なんでって、俺、ここの社員やもん。望は?」

「俺?俺な、今モデルしてるねん!」

久しぶりの再会が嬉しくてつい会話が弾む。

 

「え、えっと・・・」

もちろん、その人だけ置いてけぼり。

 

「あ、ごめんごめん。とりあえず、それが最後のページなんやね?」

「はい!」

その原稿はものすごい枚数。

いや、俺は人生で書いた最大枚数が読書感想文の5枚程度やからってのもあるかもしれん。

・・にしても多い。

 

「望、まだおる?」

「え、いや、俺も打ち合わせあるから・・・」

「そっか。そしたらちょうどええわ。またな?」

「うん。」

何がちょうどええんかわからんかったけど、一応人を待たせてるからエレベーターの方へと急いだ。

 

これが俺と君の初対面。

 

その日の帰りのこと。

偶然、出入り口のところでその姿を見つけたから声をかけた。

 

「お疲れ様です!」

「あ、さっきの!」

よう考えたら、俺はこのときから君に惹かれてたのかもしれへんなぁ。

 

「さっきは、ホンマにありがとうございました。」

「いや、お役に立てたんやったらよかったです。」

「あの、中間さんとは・・・?」

あの人が中間さん、なんて呼ばれてるのが変な感じ。

「うーん、近所のお兄ちゃんみたいな感じですかね?」

「へぇー。」

「あ、そや!俺、小瀧望って言います。あなたは?」

「へ?」

 

なんでやろ。 君のことが知りたいって思った。

 

「あ、いや、俺、知り合いの知り合いは知り合いってタイプなんで。」

戸惑う君をもっと知りたかった。

あんな綺麗な文を書く君を知りたかった。

 

「淳太君の知り合いやから、あなたとも知り合いになりたいな、って。」

どう考えても、これが惹かれるってことやんな。

 

「えっと、濵田崇裕って言います。」

「濵田さん・・・よろしく!」

「あ、はい!」

 

それから、何度かその会社で君と会うようになった。

君は、自分の獲った新人賞の作品掲載のために。

俺は自分の載る雑誌の企画のために。

目的は違うのに、いつも1番最初に探すのは君の姿で。

なんとか連絡先を交換して、LINEをしてみたりもして。

携帯に君の名前が表示されるたびにちょっとドキドキして。

 

「なあ、呼び方変えん?」

「へ?」

「小瀧君、って。なんかよそよそしない?」

「そやなぁ。」

タメ語で話してるのに君って・・・って思った時のこと。

 

「望って呼んでや?」

「望・・・?」

自分の名前を呼ばれてこんな気持ちになったのは初めてやった。

 

「俺も崇裕って呼ぶから!」

「下の名前で呼ぶやつおらんから、反応できひんかも。」

「えー、じゃあなんて呼んだらええん?」

「濵ちゃん、かな。」

「じゃ、濵ちゃん!決まり!」

みんなと一緒ってとこが少し悔しかった。

少しでも近い距離にいたかった。

 

だんだん、君の近く、は嫌になった。

君の隣、がいい。

 

「俺、濵ちゃんのことが、好きです。」

ようやく変わった関係のきっかけも、俺やった。

 

「俺で、ええの?」

 

「濵ちゃんが、ええの。」

 

「ありがとう。」

 

やっぱり、俺が抱いていた気持ちは全部一方通行やったんかな。

全部、全部、俺だけやったんかな?

 

1人ぼっちの部屋で問いかけても何も返ってきいひん。

 

「ホンマ、どこ行ったん?」

少し開いたカーテンの先に君がいる、なんてことも、もちろんない。

ただ、さっきから同じように静かに雪が降っているだけ。

 

君も、この空が見える場所におるかな?

それとも、全然違う空の下におるんかな?

こんなこと考えてるんも、やっぱり俺だけなんかな?

 

もし、見える空が違ったとしても もし、こうやって君のことを考えてるのが俺だけでも 君にも見せたいな。

街全体に降る、この白い華を。

 

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(崇裕Side)

 

「濵田君さ、こういうの、興味ない?」

 

もう、連載の原稿は全部持ってきている。

やのに呼び出された。

ってことは直しかな?今から直ししんどいな・・・

とか思ってたのに中間さんの口から出たのは全然違う話やった。

いや、全然ってわけじゃないかもやけど、とりあえず違う話。

 

「若手作家集合・・・?」

「うちで書いてくれてるデビュー3年以内の若手作家たちの短編集を作ろう!って企画があってさ。濵田君も興味あったらどうかな?って。」

手渡された企画書の中には作家の候補が挙げられてた。

でも、数えるほどしかおらん。

その中に、俺がいる。

俺が、選ばれてる・・・

 

「俺なんかが、参加してええんですか?」

「俺なんか、って。濵田君、自分で自覚ある?自分の連載、評判ええんやで?」

君のことを見たくないから、ネットは一切見ていない。

もちろん、そんな評判なんて見たこともない。

 

「どう?受けてくれる?」

「・・はい。俺でよければ。」

「よかった。」

中間さんが安心しきった表情をする。

なんか、いつもとちょっと違う感じ。

 

「ほんま、あいつ、自分で企画したくせに人集めは俺にやらせるんやから。」

独り言、やと思う。

でもダダ漏れ

中間さんには時々こういうところがある。

そして、少しにやけた口元からその人のことを悪く思ってないこともダダ漏れ

もう1度企画書に目を通すと、企画者の名前は中間さんじゃなかった。

この人もええ人なんやろうな。

 

俺も、君の話をするときこんな風やったんかな。

君も、俺の話をするときこんな風やったんかな。

明るい編集部とは対照的に俺の心はまた少し暗くなった。

 

「じゃあ、また詳しい話はメールするな?」

「はい!よろしくお願いします。」

 

新しい話。

ちょっとした短編。

何より、他の作家さんとの共同作品。

もちろん、今の連載もほかの人と一緒ではある。

でも、それとは違う緊張感。

 

どんな話にしようか。

俺らしくないと。

誰かの真似じゃ意味がないんやから。

 

かといって、俺らしい、と言われて思い浮かぶことがない。

今の連載だって、俺らしい部分なんてわからへん。

それこそネットとか見るべきなんやろか。

 

こういうときにすること。

何の目的も持たずに街を歩く。

ふとした瞬間に何かが見つかるかもしれへんから。

そうじゃなくても、後で何かの役に立つかもしれへん。

 

例えば、すれ違う人の服装。

季節の小さな変わり目までもを教えてくれる。

 

例えば、綺麗に飾られたショーウィンドウ。

誰が何に興味を持ってるかが一目でわかる。

 

例えば、街の見え方。

君がいないというだけで、こんなにも街の全てが未完成なものに見える。

少し前に降った雪はすっかり解けてしまった。

白さなんてほとんど残っていない道を歩きながら、また君のことを考えてしまう。

 

「あー、もう解けちゃった・・・。」

「こいつももうドロドロやん。」

作ってすぐになくなった雪だるま。

 

懐かしいな。

 

そんなことを思い出すのに頭を使うなら、仕事の方へ使えよ、と誰かの声が聞こえる。

でも、俺がしてへんわけじゃない。

君がさせてくれへんねん。

俺は君から離れやなアカンってわかってるのに。

君は俺なんかよりも、もっと遠くへ行くべき人やのに。

 

俺は大丈夫やで?

 

そう。

大丈夫。

ちゃんとできるよ。

 

君のいない未完成なこの街に慣れることくらい。

 

俺にだってできるんやから。

 

ちゃんと、 ちゃんと・・・

 

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(望Side)

 

 

 

それは本当に、本当に偶然やったんやと思う。

 

 

しばらく降って積もってしまった雪のせいで撮影の順番が変わった。

ホンマは屋外のシーンやったのに、それじゃ話がつながらん、ってなって、今は屋内のシーン。

そりゃ、同じ日のはずやのに、突然背景が雪景色になったらアカンもんな。

というわけで今は撮影所の中。

その撮影所が昔、モデルの仕事しかしてなかったときに使ってた場所やった。

 

偶然。

 

外観も、中身も何も変わってない。 懐かしいな。

ここに誰が食べるんかわからんような珍しいお菓子があるのも。

ここに何年も使ったような座布団が置いてあるのも。

ここにその会社の雑誌が置いてあるのも。

「え・・・?」

 

その中の1つに、見覚えのある名前を見つけた。

 

俺らみたいなテレビっ子は読まんような雑誌。

ちょっと固めで、文字ばっかり、みたいな。

その雑誌の表紙の中に、君の名前があった。

小さいけど、間違えるわけがない。

君の名前やもん。

君があのメッセージを残した日からずっと探してたんやから。

 

まだ撮影は始まらなさそうやったから、手に取って読んだ。

それは数人の小説家が交代で連載を書いているコーナーらしかった。

君の名前以外は見たことがなかった。

でも、それは関係ない。

大事なんは、このときが君の番であること。

 

偶然。

 

「白い華がうつむいて歩く人々の姿を見え隠れさせる。 あいつを探させまいとするかのように。」

それは少し切ない友情物語。

君らしい言葉で綴られた文章が並ぶ。

どれも目にとまるけれど、中でも1番目に入ったフレーズがあった。

 

「あいつがくれたものはどれもこれも美しすぎた。 俺にはもったいないくらいに。」

 

それは君の気持ちではなくて、この作品の人物の気持ち。

やのに、なぜか君の声で再生される。

君の気持ちのように思えてしまう。

俺に言っているかのように錯覚してしまう。

 

知ってる?

君が俺の心に残してくれたモノの方が、よっぽど美しいんやで?

よっぽど、っていうか、君が残してくれたモノは全部美しすぎる。

景色も、言葉も、想い出も。

それ以上ないというほど美しすぎるモノを、君は俺の心に残していった。

そんなこともわかっていなかったなんて。

 

「小瀧さん、そろそろお願いします!」

「あ、はい、今行きます!」

そっとそのページを閉じて呼ばれた方へと急いだ。

 

「ホンマ、望はアホやなぁ。」

俺が小さな勘違いをしたときとかに君が言う言葉。

そっくりそのまま、君に返そう。

 

「濵ちゃんの方が、アホやん。」

たとえ、君に届かなかったとしても。

小さく呟くだけだったとしても。

 

君が全てを俺の家に置いていったあの日から、俺の携帯が君の名前を表示したことはない。

俺から君の携帯にかけても、繋がったことはない。

家にも行ってみた。

でも、引っ越したとか言われて。

いつの間にそこまでやってたのか、と不思議で仕方ない。

まだ、どこかに君がいるんじゃないか。

何か、残されてるんじゃないか。

そう期待させるものは何もなかった。

君はこんなにもいろんなものを俺の心に残したのに。

それだけは、残していかんかった。

まるで、雪の中で1人埋もれてしまったかのように、成す術がなかった。

そんな時に、この雑誌を見つけた。

 

偶然。

 

もしかしたら、あの会社に今、君がいるかもしれへん。

それは、俺を埋めていた周りの雪が解けて、新しい花が咲いたかのような希望を与えた。

今日、仕事が終わったら寄ってみよう。

少し、この場所からは遠いけれど。

でも、そんなん、君に会えるかもしれないと思うだけでどうでもよくなる。

距離なんて関係ない。

時間も、その後の予定も。

何もかもがどうでもよくなる。

 

「ちゃんと自分を大事にしなさい。」

君なら、こう言うかもしれない。

でも、それほどに俺にとって君は大きい存在やから。

これくらい、許してくれるよな?

 

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(崇裕Side)

 

「俺な、夢があるねん。」

「夢?」

「いつか、濵ちゃんの書いた話で主演がやりたい。」

「・・・えっと、それは、どういう・・」

「そのまんま。濵ちゃんが原作の映画でも、ドラマでもええ。その話で主演がしたい。」

「えっと・・つまり、それは、」

「俺、濵ちゃんの書いた話の中で生きてみたい。」

「・・・本気?」

「めっちゃ本気。」

「俺、まだちゃんと1冊の小説すら出したことないんやで?」

「俺も演技のお仕事始めたばっかりやで?」

「でも、」

「でも?」

「そんなん、いつになるかわからんで?」

「うん。わからんよ。」

「そもそも、俺が本を出せるようになるかもわからへん。」

「俺だってわからへん。でも、やから夢なんちゃうん?」

「夢・・・」

「ほら、夢は大きい方がええ、って言うやろ?」

「そやな。」

何の根拠もないのに、その笑顔さえあれば大丈夫な気がする。

それくらいの笑顔をする君の頭に手を伸ばそうとした。

 

その瞬間、君の姿が消えた。

 

伸ばそうとしたはずの手は、君の頭ではなく、天井へと伸びていた。

そこには何もない。

ただ、伸ばされた手は空を掴んでいた。

 

頬が冷たい。

そっと指でなぞると、指が濡れた。

指が冷たくなった。

その指先から、心まで冷えていくような気がした。

 

あまりにも鮮明なそれは、記憶と呼ぶべきか、夢と呼ぶべきか。

言葉を扱うことを生業としてるはずやのに、わからんかった。

見えていた君の姿は鮮明やのに、それを表す言葉は曖昧。

ただ、もう1つ鮮明なことがある。

 

それは、君を忘れてしまうなんて、やっぱり俺には不可能である、ということ。

 

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(望Side)

 

「お疲れさまでした!お先に失礼します!!」

「あ、お疲れ様です!」

仕事が終わってから現場を後にする速度は過去最速やったと思う。

その速度のまま、俺は懐かしいあの会社へと足を運んだ。

 

モデルの仕事を卒業してから、ここに来たことはない。

高層ビルが集まるこの場所で仕事をすることが減ってしまったから。

ここに来れば君に会えるかもしれへん。

そんな単純なことすら頭に浮かばんかった。

ありがたいことに、たくさん舞い込む仕事のせいで。

君との出会いの場所やのに。

君に惹かれた場所やのに。

それを忘れてしまうなんて。

やっぱ、アホなんは俺やったかもしれへん。

でも、あの雑誌のおかげでこうして今、ここにいる。

 

今日の撮影があの場所になったのは偶然。

あの雑誌があの場所にあったのも偶然。

あの雑誌に君の名前が載っていたのも、偶然。

重なる偶然は、徐々に運命とその名を変える。

やから、これは運命的なもん。

 

「ここや。」

周りの景色も、会社自体も、何も変わってない。

よく君を待っていたこの場所も。

うん。

ここで待とう。

君が今日ここに来てるなんて確証はないけど。

それでも、来てるかもしれないという望みがあるから。

少しでもその望みがあるのなら、俺は君をここで待つ。

それが、俺に今、唯一できることやから。

 

「あれ?望?」

「淳太君、」

 

その建物から出てきたのは、見慣れた人。

でも、期待してた人じゃなかった。

 

「どうしたん?こんなとこで。寒いで?」

わかってるよ、そんなん。

「ちょっと近くまで来たから。」

じっと目を見られる。

「それだけちゃうやろ?」

適当な理由はすぐに嘘やと見抜かれた。

付き合いが長いからかな。

 

「濵田君?」

「・・・うん。」

 

淳太君には君がいなくなったとき、最初に連絡した。

この人なら何か知ってるかもしれへんから。

でも、返ってきた答えは期待してたものじゃなかった。

「望とは、もう関わられへんから、って言われてんけど・・・?」

関わらへん、じゃなくて関わられへん。

なんなん、それ。 誰が決めたん?

「まぁ、ちょっと待ったり?」

不安が怒りに変わろうとしていたときに言われた言葉。

「濵田君が望を裏切るような人ちゃうの、望が1番ようわかってるやろ?」

その言葉があったから、余計な詮索はしいひんかった。

君を信じて。

君を信じたくて。

それが正解やったのかも、わからんままに。

 

次第に今の仕事が忙しくなった。

忙しくなればなるほど、君のことを想う時間が増えた。

なんで今、会えへんのやろう。

なんで今、隣におらんのやろう。

頭に浮かぶのはそんなことばっかり。

どうすれば会えるか、なんて浮かばんかった。

溢れる想いはもう限界に近かった。

そんなタイミングであの雑誌なんて。

ほら。

やっぱり運命やったんやって。

 

「残念やけど、今日は午前中に帰ってるで?」

帰ってる。

ってことは今日、ここに来てた。

そっちの方が重要。

 

「雑誌見てん。濵ちゃんの連載。」

「あぁ、よかったやろ?」

少しドヤ顔をする淳太君に俺は大きくうなずいた。

「ただ、次に濵田君がここ来る日はまだ決まってへんねん。やし、今日はもう帰り?」

「でも、」

「今日じゃないことは確かやから。それに、ずっとこんなとこおったら風邪ひくで?」

「・・・わかった。」

このまま居座って淳太君に迷惑をかけるのも嫌やったから、その日は帰ることにした。

 

次の日から、毎日仕事が終わったらここに来るようにした。

たとえ、遅い時間でも。

もう電気が消えていたとしても。

必ずここに来て、少し覗いてから帰るようにした。

まぶしいほどの太陽が照りつけていたり。

空気も重くなるくらいどんより曇っていたり。

雨が降っていたり。

それが雪になったり。

変わり変わる空のもとで君を探した。

こんなにも、こんなにも愛しているのだと伝えるために。

 

雨や雪は風に乗って飛んでいく。

街や、人の匂いも一緒に飛んでいく。

きっと君のところまで飛んでいる。

でも、言葉は風に乗っていかない。

ちゃんと直接伝えないと、君には伝わらない。

わかってる。

それでも、もしかしたら君にも届くかもしれへん。

そんな微かな期待とともに、この空に言葉を乗せた。

君に会いたい、と。

君にもう1度この想いを伝えたい、と。

君のことが好きや、と。

君は今どこにいるのか、と。

 

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(崇裕Side)

 

”望が来てたよ。”

携帯に入った、中間さんからのメッセージ。

仕事のことかと思って急いで開けた。

でもそこにあったのは、君のことで。

 

”濵田君の連載読んだんやって。”

どこで、とか詳しいことは一切書いてない。

でも、君があの話を読んだ。

その事実がわかる1文だけで、俺には十分。

 

あの話は、普通に読んだらただの友情物語。

でも、君が読んだら少し違って読めると思う。

そんな仕掛けを散りばめた。

君にしかわからへんようなメッセージ、とか。

君にとって俺が邪魔なのは十分承知してる。

やからこそ、あの忠告を受けて、できるだけ早く君から離れた。

でも、その突然さ故に伝えきれへんかったことは山ほどあった。

っていうか、正直、何も伝えられてない。

それを後悔してた。

やから、それを少しあの話に混ぜた。

君に届くかもしれない。

そんな微かな希望を込めて。

 

「巡る季節のどこかでまたあいつに会えたら、それだけで十分だと思えた。」

今の俺の、素直な気持ち。

君は気づいたかな?

また君とどこかで出逢いたい。

そんな未練だらけのこの話を、君はどう読んだんかな?

 

「白い華がうつむいて歩く人々の姿を見え隠れさせる。あいつを探させまいとするかのように。」

目の前に君がいるかもしれない。

なんて、アホみたいな俺の妄想。

それを、あの雪の日に思い浮かんだフレーズに乗せたりして。

 

雪が花じゃなくて、華に見えた理由を君は知らない。

君と雪という組み合わせがあまりにも美しかったから。

なんか、その美しさは花じゃなくて、華やった。

そう、素直に話したことがないから。

 

そういえば、君はこないだまで積もっていた雪をちゃんと見てたかな?

もう、このあたりはすっかり解けてしまったけど。

ちゃんと部屋はあったかくしてるかな?

寒がりな君のために買ったあのブランケットは今も使ってんのかな?

今、俺の部屋の窓から見える、いかにも積もらなさそうなこの雪も。

僅かな風に乗って舞うこの雪も。

君のいる場所からは見えてるんかな?

この同じ空の下で、君も見てるかな?

俺が見てる、この景色を。

 

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(望Side)

 

もう、君の名前を見つけてから何日経ったかな。

未だに君には会えてない。

地面に積もっていたはずの雪はすっかり溶けてしまった。

まばらについていた足跡は、俺のだけ。

君と2人分の足跡をつける前に溶けてしまった。

 去年みたいに、2人で笑いながらこの道を歩きたい。

なんで、そんな小さな願いですら叶わへんの?

君に会いたい。

ただそれだけやのに。

それだけを叶えるのにどれだけの時間が必要なんやろう。

 

日が暮れてきて、人通りが多くなる。

立ち並ぶ高層ビルからはスーツ姿の人が出てくる。

目の前に立つ、この建物からも少しずつ人が出てきた。

また淳太君に見つかったらなんか言われるかもしれへん。

そう思って、淳太君が出てくる前にこの場所を後にした。

いや、正確には後にしようとした。

 

でも、その瞬間、ふわっと何かが香った。

 

冬の冷たい風が、寒さ以外のものを運んできた。

俺の知ってる匂い。

思わず立ち止まってしまう。

振り返って玄関口の方を見ると、香りの主がいた。

 

心のどこかで、今日なら会えるかもしれへんと思ってた。

だって、今日はいつもと違う日やから。

今日は特別な日やから。

な?

そういうことやろ?

ずっとずっと会いたいと思っていた君を見つけることができたのは。

 

「濵ちゃん・・・?」

 

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(崇裕Side)

 

”例の短編集の件、作家さん全員からOKもらえたから、会議するんやけど、濵田君も出席してくれる?”

”ほかの作家さんと知り合うええ機会にもなると思うねん”

中間さんからのメッセージ。

そんなこと言われて断るわけがない。

ほかの人がどんな人か気になる。

それは事実。

やから会議に参加した。

 

さすが若手、と名打たれてるだけあって、俺と同世代っぽい人ばっかりやった。

この人たちと1冊の本を出す。

それが現実味を帯びてきた。

どんな話にしよう。

結局何のプランも思い浮かんでない。

君との想い出ばっかりが浮かんで、新しいことが考えられへん。

かといって、どの想い出も宝物やから忘れ去るなんてできひん。

というかしたくない。

日に日に増すのはこの矛盾した気持ちだけ。

ほんま、早くなんとかしやなアカンのやけどなぁ。

どうしようかなぁ・・・。

 

「お疲れさまでした。」

「お疲れ様。今日はこんだけやし、もう帰ってもええよ?」

会議が終わり、みんなバラバラと帰っていく。

俺も別にこの後何もないし、帰ることにした。

「ありがとうございます。じゃあ、お先に失礼します。」

エレベータに乗り込み、下へと降りる。

複雑な気持ちを抱えて。

そのまま、建物の外に出る。

 

相変わらず、冬の痛いほど冷たい風が吹いている。

幸い、追い風気味やから顔に直接あたることはない。

このままさっさと家に帰ろうか。

とか。

今日の晩ご飯、何にしよ。

とか。

どうでもいいことで複雑な気持ちを追い払っていると、目の前にいる人が突然振り返った。

 

「濵ちゃん・・・・?」

 

それは、俺の頭を悩ませていた張本人。

紛れなく、君やった。

 

「望・・・」

 

長い間外にいたことを示すように、マフラーから出ている君の鼻は赤くなっていた。

自分の体を1番大事にしやなアカン商売やのに。

でも、そうさせたのは俺なんや、と真っ直ぐ俺の方を見つめる瞳が物語っている。

なんて言ったら、自惚れかな。

 

「やっと会えた・・・っ!!」

ぎゅっという効果音がこんなにぴったりなことないと思う。

それくらい抱きしめられた。

「ちょ、望、こんなとこで、」

でも、それを他人に見られてしまえば、あの忠告も無意味になってしまう。

 

「あ、ごめん、俺・・・」

急いで離れた君の表情は悲しそうやった。

君が勘違いをしたことは明らか。

そりゃそうや。

君はあの忠告を知らんのやもん。

俺が君を拒絶した、と思ってるかもしれへん。

そんなこと、ありえへんのに。

寂しがり屋な君に、絶対にさせたくないと思っていた勘違い。

 

「俺な、濵ちゃんの小説、読んでん。」

でも、君はそれを勘違いやと言わせぬまま話し出した。

「あの主人公の言葉、ちゃうってわかってんのに、俺に向けての言葉かな、って思えてさ。」

 

それもちゃう。

ちゃうっていうのがちゃう。

あれは君に向けた言葉やで?

 

「濵ちゃんさ、自分がどんだけいろんなもん残してんのかわかってへんやろ?」

君がどの文章のことを言ってるのか分かった。

君に向けた場所は全部覚えてる。

一言一句、完璧に。

 

「濵ちゃんが俺の心に残してくれたモノの方がずっと美しすぎんのに。」

それはどうやろう?

君が俺に残したモノはどれもこれも美しい。

でも君はそれに気づいてない。

それは君の当たり前やから。

君が自然に残してくれたモノ。

それは何よりも美しい。

 

「街の景色も、ここの景色も、こないだ降った雪の景色やって、全部全部濵ちゃんが隣にいてくれたから意味があってんで?」

君の頬を、一筋の涙が伝った。

ほら、また美しいモノを俺に見せてくれる。

「やのに、勝手におらんくなるとか意味わからんやん。」

 

涙を流す君と、平然と立っている自分。

明らかに周りから見たらおかしい。

「なんで今の今まで連絡とれへんようにしてたん?」

会話からも俺らが何かで揉めてることは一目瞭然。

でも、そんな周りの目なんて気にならんほどに、君しか見えてへんかった。

 

「俺じゃ、アカンかった・・・?」

君の1人で背負込んでしまう性格は変わってない。

全部自分に何か問題があると思ってしまう、少し不安になるような性格。

 

「なぁ、なんか言うてや・・・」

それを安心させるのが俺の役目やったのに。

全くできてへん。

 

「1回、俺の家来てくれへん?」

何言うてんねん、って言われるかもしれへん。

でも、こうせずにはいられへんかった。

誰に聞かれるかもわからないこの場所に居続けるのも。

寒そうな君をこのままにしておくのも。

俺にはできひんかった。

「そこでちゃんと話すから。」

 

どうか、許してください。

俺も、君も、もう限界なんです。

俺が君の邪魔になってる。

それは十分にわかってる。

でも、これ以上なんて、お互いに耐えられへん。

 

俺は今日、君にすべてを話そう。

 

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(望Side)

 

「1回、俺の家来てくれへん?そこでちゃんと話すから。」

そう言って連れてこられたのは、見たこともない場所。

君の、新しい家。

間取りは前よりちょっと狭い気がする。

相変わらず、部屋は少し汚い。

今日も慌てて出て行ったんかな。

 

「望、藤井さんに俺に会うこと言うた?」

藤井さん、っていうのは俺のマネージャーさんのこと。

藤井流星

顔も名前も俳優とかできそうやのにしいひん。

表に立つと人間関係が面倒になるから、らしい。

裏も面倒やろ?という質問に答えてくれたことはない。

ちょっと不思議やけど、仕事はちゃんとする人。

 

「ううん。なんで?」

でも君がその人と喋ったのは、俺が紹介した1回だけのはず。

やのに、なんで気にするんやろう?

 

「藤井さんがな、もう望の周りには望の揚げ足を取ろうとするヤツがおるって言われてん。」

それは俺も気づいてた。

家を出るとき。

仕事場から帰るとき。

同じ人がじーっとこっちを見ていることがあった。

流星からも忠告を受けた。

やから、十分に注意してきた。

おかげで、1回もそういう事態になったことはない。

 

「俺がおったら、そいつらの恰好の獲物になってまうやろ?」

 

「は・・・?」

その言葉で、全てが繋がった。

でも、俺の思考は止まった。

 

「俺が望の夢を壊すことになるとか、絶対嫌やった。やから、俺はお前から離れてん。」

 

そりゃ、関係的には俺と君の関係は恰好の獲物になってまうかもしれへん。

でも、

でも、やから離れる、なんて。

 

「離れろ、って流星に言われたん?」

そんなん、鈍感な君が思いつく考えじゃない。

君は俺の周りのことなんて知らんかったはず。

 

「それは、」

君の目が泳ぐ。

ほら、君は嘘が苦手やから。

正直な人やもん。

俺は、君のそんなところが好きやった。

いや、好きや。

大好きや。

今も、これからも。

ずっと、ずっと。

 

「ちゃんと、俺もそんなん気にならんくらいになる。」

今の俺程度の人間じゃ、すぐに崩れてまう。

君が心配するように。

やから、もっともっと強くならんとアカン。

君との関係を明かしても、何も言われへんくらいに。

そのくらい大きい人間になる。

 

「やから、俺から離れるとかさ、嘘でも言わんといてや。」

「望・・・」

君の顔を見ると、ずっと胸の中にあった想いが溢れ出した。

 

「ずっと一緒、とか言わんから、やから、もう離れるなんて言わんといて・・・?」

 

堪えようと思っていた涙が、頬を伝った。

 

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(崇裕Side)

 

純粋で、人一倍涙もろい君やから、泣いてるところなんて何度も見てる。

映画見てるときとか、自分で演じてるときとか。

あ、本読んで泣いてたこともあったな。

でも、今君の頬を伝った涙は、俺が知ってるどの涙よりも心に刺さった。

 

「ごめんな。」

俺の口から出たのは、その一言だけやった。

それさえ、俺には言う資格なんてないのかもしれへん。

ましてや、こうして抱きしめるなんて。

でも、たとえお前にそんな資格はないと言われようと、そうせずにはいられへんかった。

 

俺よりも背がでかくて、がたいもええはずやのに、抱きしめた体はものすごく小さく感じた。

この子は絶対に離したらアカン。

この先、何があろうとも。

もう二度と、この子から離れるなんて言ったらアカン。

頭じゃなくて、心がそう言った。

 

「なぁ、今日、何月何日か知ってる?」

しばらくして少し落ち着いたらしい君が言った。

日付とか曜日とかの感覚がすっかりなくなってる俺はぱっと答えることができひんかった。

やから、君から少し離れてスマホを確認する。

電源を入れると画面に日付が映し出される。

その日付は、忘れるはずもない。

 

 

君が俺に好きやと告げてくれた日付やった。

 

 

「俺、濵ちゃんのことが好きです。」

あの日と同じ、君からの言葉。

 

「俺で、ええの?」

やから、俺もあの日と同じ言葉を返そう。

 

「濵ちゃんが、ええの。」

君も同じ言葉を続ける。

 

でも、1つ違うことがある。

それは君の表情。

あの日は満面の笑みやった。

でも、今俺の目の前にいる君は再び溢れ出した涙を必死にこらえてる。

 

おかげで、俺もあの日と同じ様になんて、とても笑えそうにない。

 

「ありがとう。」

なんとかあの日と同じようにしようとしたつもり。

でも、あの日ははっきり見えた目の前が滲みだしたのは、きっと君のせい。

 

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(望Side)

 

「小瀧さん、入られます!」

「よろしくお願いします。」

 

あれから君といくつか約束をした。

お互いの家への行き来は月に2回程度にすること。

でも、ちゃんと近況は報告し合うこと。

何かあったらちゃんと共有すること。

お互いの仕事の支障にならへんように、って決めた。

 

まだ、そんなことをしやんとやっていけへん自分が嫌になる。

でもしゃあない。

それに、今は俺だけじゃない。

君やって何かあったらアカン時期。

お互いがお互いの足を引っ張らんんようにしやんとアカン。

目の前に白い華が舞い降りる。

 

「今日は今シーズン最後の雪が降るかもしれませんね。」

そういえば朝、天気予報のお姉さんがそんなことを言っていた。

別に、雪には流れ星のように願い事が叶う、なんて言い伝えはない。

でも、冬空を舞う雪に願いをかけた。

 

早く、こんな約束なんて気にならんようになりますように、と。

誰にも何も言われず、ただ君と過ごせる幸せな時間が来ますように、と。

君の隣でいつでも笑っていられますように、と。

俺は君のことをこんなにも、こんなにも愛しているから。

 

「ちょっとだけ準備に時間がかかるんで、お待ちください。」

「はい。」

少し地面より高いこの建物から外を眺めてみる。

そこには忙しく働く人と、それを見守る街と、その街を白く染める雪があった。

君にもこの雪は届いてるかな?

ひとたび仕事スイッチが入ると部屋に籠ってしまう君。

きっと部屋は物だらけ。

外の様子なんて気にしてへんと思う。

これが今年最後の雪かもしれへんのに。

こんな綺麗なものを見いひんなんて、もったいない。

 

役者と作家。

今、俺が見ている空と、君が見ている空は繋がってない。

でも、どこかで必ず繋がる。

やから、いつか2人で同じ空を見れますように、と。

 

もう1度、雪に願いをかけた。

 

Fin

重岡大毅×神山智洋「Lovely X'mas」@S×K

(智洋Side)

 

「なあなあ、これめっちゃ行きたいねんけど!」

 

期末テストまであと少しとなったある日の昼休み。

突然スマホとにらめっこしてた望が言った。

 

「何?」

「これ!めっちゃうまそうちゃう?」

キラッキラの目でスマホの画面を差し出す。

そこには確かにおいしそうなローストビーフ丼の写真があった。

最近人気のお店やったような気がする。

 

「これ、期間限定で半額らしいで?!行きたくない?なぁ?」

つまりはみんなで行きたいってこと。

 

出ました、甘えん坊ののぞむくん。

 

「確かにおいしそうやな。」

俺は素直に乗ってあげる派。

 

「やろ?なぁ神ちゃん、シゲと流星も説得して?」

「なんで俺やねん!自分でしなさい。」

「別に俺、行かへんとか言ってへんで?」

シゲは興味のある時は乗ってあげる派。

大体興味があるんやけど。

 

「ホンマ?!ほら、流星、シゲも言うてるで?行こうやー。」

「ええけど、いつ行くん?」

流星はサラッと乗っている派。

 

要するに俺らは甘えん坊ののぞむくんに甘い。

 

「やったー!えー、どうしよっかな~」

スマホのスケジュールとにらめっこ中。

おーい、そのスケジュールに期末テストの文字はちゃんとありますかー?

 

「再来週の火曜は?」

ちょうどテストも終わってひと段落したくらいのとき。

この学校はテストが終わると同時に授業もなくなる。

部活にも入ってない俺らにとってもうそこは冬休み同然。

 

「なんもないよー。」

「じゃ、決まり!」

タイミングよく5時間目の予鈴が鳴った。

 

「詳しい時間とかはテスト明けにしよか。」

行くことは決まっても、そこから先が決まらへん。

結局予定が流れることもあり得る。

というか実際にあった。

やから、ここまで来たらまとめるのは俺の仕事。

じゃないとまたおじゃんやもん。

 

「は、テスト・・・やばい、次英語単語やん!忘れてた・・・」

「嘘?!そんなんあった?」

テスト前に重なる小テスト。

基本的にこいつらはその予定を把握してへん。

 

「俺らないよな?」

「うん。6時間目やで?」

「え・・・」

シゲも含めて。

 

「神ちゃん、次のとき教えてー!」

「はいはい。」

こういうときについつい甘やかしてしまう。

これを惚れた弱みというのか・・・。

 

「ずるいぞ、シゲ!お前もこっち側の人間やろ!」

「なんやねん、こっち側って!俺は勉強教えてもらうんや!」

 

ちなみに望とシゲは補習常連組。

流星は毎回ギリギリ補習から逃れる組。

俺は余裕で逃れる組。

補習のボーダーライン、かなり低いんやけど、なぜかこの関係は変わらない。

 

「裏切り者!一緒に勉強してたあの時間は?!」

「俺は脱補習するんですー!」

 

 

「神ちゃん!頼む!」

なんだかんだで数回の席替えの末、前後になった俺ら。

しかも窓際。

いわゆる特等席。

神様、ちょっとこれは優しすぎませんか?

 

その上、5時間目は自習と言っても過言じゃない古文。

5時間目の古文なんて子守歌と一緒。

それを証拠に1番後ろのはずやのに視界が開けている。

うーん、いつも以上に黒板がよう見えるわ。

 

「範囲、こっから?」

「うん。そんな難しないと思うで?」

やから、起きてるだけ俺らは偉い、ってことで。

内職は見逃して? 先生?

 

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(望Side)

 

「なぁ、流星?」

「ん?」

「俺にな、考えがあるねん。」

 

ボロボロに終わった英語の単語テスト。

しゃあない!

もう終わったことは気にしたらアカン!

そんなんより俺には考えなアカンことがあるねん!

 

「何の話?」

「シゲと神ちゃん!」

「あぁ。」

 

夏祭りのときに2人がようやく、ちゃんと付き合い始めた。

それからたびたびノロケ話を聞かされている。

シゲは俺に、神ちゃんは流星に言うことが多い。

言うっていうか、LINEがほとんどやけど。

まぁ、お互いホンマに楽しそうに報告してくる。

こないだ流星に神ちゃんとのLINE見せてもらったときなんか、シゲと一緒すぎて笑ったもん。

どんだけお互い好きやねん!

幸せかよ!

 

「あの2人にちょっと冬の想い出作ってもらいたくない?」

「どういうこと?」

昼休みにたまたまTwitterで見つけた最近人気のお店のツイート。

これを利用しいひん手はない!と思って誘った。

優しい神ちゃんを筆頭に俺の読み通りに計画が立った。

ってことは?

もうこの先も俺のもんよな?

 

「ええやん。やろうや。」

流星も俺の案に乗ってくれる。

「やろ?あー、楽しくなってきたわー。」

夏に2人をくっつけるときもこうやって流星と作戦を立てた。

なんでやろ。

こういうのってめっちゃ楽しい。

 

「はい、次の文・・・小瀧読んで。」

「え?ちょ、流星!どこ?」

「えー、俺に聞かれてもー。」

ただ、今が授業中ってことだけが問題点。

 

「おい、聞いてへんかったんか?そんままやったら成績下がっても知らんで?」

「えー!それはひどいって、淳太!」

英語の担当教員であり、このクラスの担任でもある淳太。

すっごい賢いねんけど、どこか不器用なところがある。

そこがすっごい好き。

 

「呼び捨てにすんな!先生をつけろ、先生を!」

でも、先生って感じがしいひんねんなぁ。

制服着やんと並んだら絶対俺の方が年上に見られる自信があるもん。

やったことないけど。

 

「うわー、今にもチョーク飛んできそうやで、望。」

「飛んで来たらキャッチしたる!」

「飛ばさへんわ!」

どんな小さいことにもツッコんでくれる。

そこも好き。

 

「もうええ。代わりに課題出したるわ。」

「えー?!嘘やん?!」

「嘘ちゃうわ!」

淳太、ひどーい。

でもこうやって絡んでくれるところは大好きやで?

1番じゃないけど。

 

「5、4、」

後ろからカウントダウンが聞こえてくる。

誰よりも授業を面倒と思っている流星の声。

 

「2,1,0」

同時に授業終了のチャイムが鳴る。

 

「しゃあない。小瀧、お前、あとで俺のデスク来いよ!終わります。」

バタバタみんなが立ち上がって違うところに行く。

 

「災難やなぁ。自業自得やけど。」

いや、俺だけのせいか?

流星もやん!

 

「流星、ついて」

「いかへんから。」

やのに来てくれへん。

「いじわる。」

「いってらっしゃーい。」

笑顔で見送りやがって。

 

「あれ?望、どうしたん?」

廊下で神ちゃんとすれ違う。

 

「淳太のとこいかなアカンねん。」

「なんか、やらかしたんやろ?」

ニヤニヤした顔で言われる。

 

「なんでわかるん?!」

「だって中間先生、今、あぁもう!とか言いながら通り過ぎてったもん。」

あぁ、これは結構課題出されるヤツやな。

 

「ちゃんと終わらせて期末頑張りや?やないと行けへんで、あの店。」

予定した日は本来補習のある日。

でも今回こそは回避してやる。

 

「わかってるわ!絶対行くから!」

俺の計画を実行するためにも、絶対行くから!

 

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(大毅Side)

 

無事、期末テストが終わった。

しかも全員補習に引っかかることなく、冬休みを迎えた。

 

ちなみに、俺と望が補習を回避したのは初めてのこと。

毎回、何かしらアカンかったからなぁ・・・。

望も俺も。

でも今回は違う。

 

半分くらいの教科が平均を超えた。

先生にはかなり驚かれた。

ちょっとひどいよな。

 

とにかく、今日は望が行きたい!って行ってたお店に行く日。

 

「せっかくクリスマス近いんやから、なんかそれっぽいこと、しよ!」

 

お前は子どもか!と言いたくなる望の提案によりプレゼント交換もすることに。

まぁ、損にはならんからええんやけど。

 

というわけで今俺のかばんには柄にもない包装のプレゼントが入ってる。

何が入ってるか?

そんなん言うわけないやん。

 

”駅着いた!”

携帯に入るLINEは神ちゃんから。

家が近いのに一緒に来てないのは俺がさっきまでプレゼントを買いに行ってたから。

そう。

今カバンに入ってるのはさっき買ったもん。

やから待ち合わせ場所は最寄り駅。

 

”なぁ、既読、1しかつかへん・・・”

不安げな君からのLINE。

まぁ、その1は俺なわけで。

でもつくべき数字は3なわけで。

ということは残りの2は・・・

 

”もしかして、あいつらまだ寝てるんちゃうん?”

”じゃなかったら連絡来るよな・・・?”

そりゃそうやな。

ってか、望、あんな楽しみにしてたのに寝てるか?

 

”とりあえずそっち行くわ”

待ち合わせ場所は駅の改札を抜けた階段の下。

同じように待ち合わせの人っぽいのがいっぱいおる。

でも、その中から神ちゃんの姿を見つけるなんて簡単。

 

「あ!」

白いコートを着た君も俺のことを見つけてくれたらしい。

笑顔で手を振ってくれる。

そういえば、夏祭り以降こんな風に2人で待ち合わせなんてなかったかも。

 

いつも神ちゃんが図書館か、どっちかの家で勉強を教えてくれるばっかり。

そのおかげで補習を回避できた。

その上、平均以上を取る教科が出るなんて、神ちゃんのおかげ以外の何物でもない。

2人きりで勉強するのもドキドキするんやで?

でもそれ以上に補習の危機の方が大きすぎて、そんな気持ちはしまわんとアカンかった。

それで今日がなくなったら、意味ないもん。

 

もちろん、今日はそんな必要ない。

純粋にこの時間を楽しめばいい。

そんな時に2人きりとか・・・

 

急に心臓がドキドキしだした。

 

「ごめんな、遅なって。」

「ううん。俺もさっき着いたとこやし。それより流星と望、どうする?」

「んー・・・」

置いていく、っていうのが俺の中の1番の候補。

そしたらずっと2人やで?

君は反対するやろうけど。

 

「あ、望!」

君の携帯には望からのメッセージ。

一緒に携帯を覗く。

君に近づきたいという小さな下心付きで。

 

”ごめん、財布忘れたから家戻る!”

 

「あいつ、アホやな。」

「でも望が忘れもんって珍しいな。」

 

”先行ってて!”

続いて届くメッセージに君が返信する。

 

”でも俺もシゲも店の場所わからへん”

”ちょっと待ってて!”

相変わらずつく既読は1。

1つは俺が神ちゃんの携帯を見てるからついてへんだけやけど、もう1つは確実に寝てるな。

 

「借りるで?」

「え?」

君の手から携帯を奪い、文字を打つ。

 

”望、ついでに流星起こして来てや”

「ちょ!俺が打ったみたいになるやん!」

すぐに君に奪い返される。

 

”今のシゲから”

”やっぱり(笑)”

望にはバレバレみたいやけど。

そりゃそうやな。

 

”あいつ、寝てるん?”

”だって既読、望しかついてへん”

”めんどい”

小瀧望がスタンプを送信しました”

だるそうな顔のスタンプ送りやがって。

 

「あいつー!」

「あ、ちょ!」

”起こしてこい!”

「もう!」

「あー、」

小瀧望が画像を送信しました”

”はい、地図”

”結構遅れるけどいい?”

”ええよ、シゲと先に行ってるな?”

 

ぐっと睨まれる。

でも全く怖くない。

むしろかわいいだけ。

自覚ないらしいけど。

 

”神ちゃんとシゲ、交互なん、めっちゃわかるわ(笑)”

「最後!」

「!?」

”うるさい!早よ流星起こしてこいよ”

”はーい”

 

「もう!自分のでやってや。」

「ええやん。望分かってるんやし。」

俺はただ神ちゃんにちょっと近づきたかっただけやし。

でも思った以上にドキドキしたからちょっと後悔。

 

「じゃ、行こか。」

「はいはい。」

 

望が送ってくれた地図をもとに探す。

嘘。

探してもらう。

 

「これ、結構歩くかな?」

「ってか、今どこ?」

「え、ここちゃうん?」

普段地図なんか見ながら歩くことないから全くわからへん。

適当に歩けば着くやろ、の精神。

でも神ちゃんはちゃんと確認していくタイプらしくて。

 

「うーん、駅どれやろ・・・?」

地図とにらめっこ。

そうしてる間に11時を知らせる鐘が鳴る。

確か予約、11時半とかじゃなかったっけ?

 

「これや!よし、シゲ、いこ!」

ぐっと手を引かれる。

 

「お、おぅ。」

急に近くなる距離。

自分から仕掛けても結構ドキドキしたのに。

さっきまでドキドキしてた心臓がさらにドキドキしだす。

ついこないだまで、こんな距離、夢みたいやったのに。

 

「どうしたん?」

振り返って首を傾げる君が俺のものなんて。

未だに嘘なんちゃうかと思えてしまう。

 

「ううん。なんでもない。」

でもなんか、神ちゃんは余裕そうやから、この気持ちは隠しておくことにした。

俺だけ余裕ないの、嫌やもん。

 

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(智洋Side)

 

まさかの事態。

 

今日は4人で、と思ってたのに、なんと今、シゲと2人。

 

別に、傍から見たら普通のことなんやろうけど。

でも俺にとっては、夏祭り以降、ドキドキが増すばかりで心臓に悪い。

今もほら、めっちゃドキドキしてる。

 

あれから勉強会とか2人でしてみたりもした。

でもやっぱりドキドキでそれどころじゃなくなりそうで。

なんとかできたのは、シゲの補習回避という重大任務があったから。

勉強に集中せざるを得ない状況やった。

おかげでシゲは補習を回避できたんやけど。

 

そこではもちろん、学校帰りやから制服やったわけで。

でも今は私服なわけで。

見たことないわけちゃうで?

ちゃうけど、レアなわけで。

 

頭の中をいろんな考えがめぐる。

それが余計にドキドキを加速させる。

 

しかも!

 

さっきまで望との連絡にわざわざ俺の携帯覗いたり、代わりに打ったり。

近づく距離にドキドキしいひんヤツがおったら連れてきてほしい。

そのくらいドキドキした。

いや、ちゃうな。

今もやから、ドキドキしてる。

 

それを悟られたくなくて、望から送られてきた地図を片手にシゲより前を歩く。

こうしたら顔、見られへんから。

 

なんで見られへんのがええかって?

だって、今顔見られたら絶対ドキドキしてるのバレるもん。

それは困る!

はずい!

はずすぎる!

 

ただ、この方法には問題点が1つ。

俺もそんなに地図が得意じゃない。

いや、シゲほどじゃないで?

でも、なんとなく近くにあるものを頼りに進んでるだけ。

 

ホンマにこれで道、合ってるんかな・・・?

 

「なぁ、シゲ?」

「ん?」

「この道で合ってると思う?」

「えぇ、俺そんなんわからんで?地図嫌いやもん。」

 

うん。

知ってる。

あの壊滅的な地理見たもん。

ホンマ、ようあそこから平均点にまで成長したな、と思ったし。

 

「神ちゃん、できるんちゃうん?」

「うーん、俺も得意ではない。」

「そうなん?てっきり得意なんかと・・・。」

だって、こうやってシゲとしゃべるの、ドキドキするんやもん。

そしたら地図見るしかないやん?

もうこれ、不可抗力やろ?

 

「でもな、一応周りに何があるかくらいは対応させられるつもりやで?ほら、ここコンビニ!」

「あ、ホンマや。」

 

地図はそのコンビニを真っ直ぐ進めと書いている。

でも、それとは裏腹にこの先にそれらしき店はない。

やっぱり迷ったんかなぁ・・・。

 

ドキドキに負けて先頭歩くんやなかった、とか。

もうちょい俺にも地図ができたら、とか。

望にまかせっきりじゃなくて俺も店調べとけばよかった、とか。

 

小さな後悔が頭を埋め尽くす。

ちょっと自己嫌悪・・・。

 

「じゃ、とりあえず行ってみようや。」

 

そんなときに楽観的な君の考え方は救いになるんやろうか。

行き当たりばったりで生きているとはまさにシゲのこと、と言えるくらい楽観的な部分を持っている。

俺にはないもん。

やから惹かれた、と言っても過言じゃないのかもしれへん。

 

時計を確認する。

たぶん、予約の時間はもうちょい先。

やったら、少しくらい迷ってもええか。

そう思えたのは、楽観的な君の考え方が移ったからなのか。

 

それとも、君とならどんなこともすべて溶けて幸せに変わってしまうからなのか。

 

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 (大毅Side)

 

とりあえず行ってみよう、とは言ったものの、やっぱり店らしきもんなんて見当たらへん。

っていうかそもそも、建物が減ってへん?

 

「なぁ、最近雪降ったっけ?」

「へ?」

 

突然の君からの質問に間抜けな声が出てしまった。

 

「いや、なんか地面、白くない?」

 

言われてみれば、ほんのり道路が白くなっている。

でも、雪が降った記憶なんてない。

 

「人工、かな?」

というか、それしか考えられへん。

「町中に人工雪を降らせる必要性は?」

でもその答えも君の質問にあっさり砕かれる。

「・・・ないなぁ。」

 

こうなったら店にたどり着くかなんてどうでもええ。

この雪の謎が知りたい!

 

「ちょっとさ、行ってみいひん?」

このまま、雪をたどればきっと謎は解ける。

 

「え?でも、時間・・・」

「大丈夫やって。それに悪いのは時間通りに来んかった流星と望やねんから。」

あの2人が時間通りに来ればここに来てなかったかもしれへん。

正論やろ?

あの2人を待ってたらかかってたであろう時間をここに割く。

ほら、大丈夫。

 

「神ちゃんも気にならん?」

あとは君の興味だけ。

「なる。」

もちろん答えは俺の期待してた通り。

 

「じゃあ決定!行こ!」

 

神ちゃんが見つけた白い雪。

そもそもこの辺は毎年雪自体、全然降らへん。

北陸とかに分けてもらいたいくらいに。

そのせいかな?

未だに雪を見るとちょっとテンションが上がる。

それも、こんなに謎たっぷりなんて。

君と2人で、なんて。

テンション上がらんわけないやん。

 

「ちょっとずつ量も増えてるな。」

「確かに・・・」

 

歩けば確実に雪を踏んでいるという感触に変わっていく。

こんなに早くこれを体験できるとは・・・

なんなら1回も体験せえへん年もあるというのに。

一体、この先で何が待ってるんやろう?

俺の胸はさっき君を前にしたときとは違うドキドキでいっぱいやった。

 

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(智洋Side)

 

子どもみたいな顔して先へ進むシゲの少し後を歩く。

いつも子どもっぽいところはあるけど、今日は特に子どもっぽい。

これが少し早く見れた雪の力、なんかな?

今にもスキップしだしそうな軽い足取り。

白い雪にマフラーの赤が映えるなぁ。

まるでショートケーキみたい。

なんて言ったらポエマーとか言ってバカにされそう。

やから絶対言ったらへん。

 

「あ!あれちゃう!?」

勢いよくシゲが何かを指さした。

その先には何かの看板があった。

 

「小さな雪まつり・・・?」

どうやらなかなか雪の降らないこの地域にいる子どもたちにも雪を楽しんでもらうためのイベントらしい。

確かに、冬休みになったらばあちゃん家に来たりしてたけど、1回も雪降ってたことないなぁ。

なんなら、まだちゃんと雪が積もってるのを見たことがない子もいるかもしれへん。

そんな中でこんなイベントやったら、盛り上がるんやろうな。

 

でも、今日は平日。

俺らはテスト終わりで学校がないけど、世間的にはまだ学校も仕事もある時間。

つまり、人が全然おらへん。

盛り上がりは、欠片もない。

 

「こんなんやっててんなぁ。」

ということは、隣で楽しそうに笑う君と2人きり、が続くわけで。

「見て!これめっちゃすごい!」

目の前にある雪のオブジェなんかより、俺の意識は君に向いてばかり。

 

「なんか、望と流星にちょっと感謝やわ。」

ふと君が呟いた言葉。

「なんで?」

理由は分かってる気もするけど、やっぱりちゃんと直接聞きたくて。

 

「だって、あの2人がちゃんと来てたらこんなとこ来れてへんで?」

返ってくるのは期待通りの言葉。

「そやね。」

その言葉だけで十分やのに。

 

「俺、神ちゃんとここ来れてよかったわ。」

ほら、また俺をドキドキさせる。

そんな笑顔でこっち見んといてよ。

ずっと離したくなくなるやん。

ドキドキするやん。

俺だけ余裕がないみたいで、ちょっと悔しい。

やから、俺にもちょっと仕掛けさせて?

 

「そしたら、もうちょいあっちまで行ってみいひん?」

君の腕を引いて。

きっと今、俺の顔も耳も真っ赤。

でも、君の顔も少し赤くなった気がしたから、これは俺の勝ちってことでいい?

 

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(大毅Side)

 

「俺、神ちゃんとここ来れてよかったわ。」

2人しかおらんこの場やから言える俺の本音。

それが言えたのは、まだ雪が降るほど寒くないのに目の前に立つオブジェたちの雪マジックなんかな?

たとえマジックのおかげやったとしても、この気持ちを君に伝えたいと思ったこの気持ちは嘘じゃない。

マジックでもない。

今この瞬間で世界が止まってしまえばいいというこの気持ちも、全部俺の本音。

 

「そしたら、もうちょいあっちまで行ってみいひん?」

こんなタイミングでそんなこと言われたら、なんか余計にドキドキするやん。

俺の腕まで引いちゃって。

 

アカン。

急に神ちゃんと2人きりという現実に引き戻された。

さっきまで雪にとられてたドキドキが一気に帰ってくる。

あー、心臓がうるさい。

 

「時間は?」

精一杯の俺の照れ隠し。

「大丈夫。もう望とかが着くって連絡来た。」

いつの間に確認したんやろ?

一応携帯をちらっと確認してみる。

でも、そんな通知はない。

 

「個人で?」

「もう見たん?」

ちょっと残念そうな顔をされた。

 

「せっかく俺もシゲと一緒におりたいから言うたのに。」

少し拗ねた声を出した君がかわいすぎる。

余裕そうに見せてるけど顔が赤くなってるとことか、やばい。

今すぐ抱きしめたくなる。

なんで、そうやって俺をドキドキさせることをさらっと言うんかな?

 

「なぁ、アカン?」

そんな風に首を傾げられて、俺が断れるなんて思ってるんやろうか。

いや、これは俺が断らんと知ってての確信犯やな。

 

「んなわけないやろ。」

「じゃ、いこ!」

また楽しそうに俺の手を引いた。

 

神ちゃんを含め、大体の人が俺の方が年下みたい、って言う。

でも、俺は知ってる。

ホンマは神ちゃんにも十分子どもっぽいところがあることを。

それを頑張って隠して大人っぽく見せようとしていることを。

それも全部含めて神ちゃんのことが好き!ってもしも言えたら。

一体どんな顔をされるんやろう?

また、顔を真っ赤にしてくれるんかな?

 

「あ、あっちの方、雪降ってる!」

「へ?」

君が指さした方角には人工雪を作る機械が堂々と置かれていた。

一応立ち入り禁止の柵はある。

でも簡単なもので。

ま、今は小さい子もおらんしええんか。

にしても無人で動くんや、これ。

いや、どっかでちゃんと操作してんのかな?

 

「あ、流星起きたって!」

「ほんまや。」

携帯に入った通知。

いや、遅すぎやろ。

 

「俺らも寄り道してるよーって送るな?」

「はーい。」

俺の代わりに連絡してもらう。

携帯を見る目元に白い人工雪がそっと舞い降りた。

 

「ん、なんかついた。」

でもすぐに手で払われる。

あぁ、せっかく絵になってたのに。

 

「え?!」

「どうしたん?」

「いや、これ・・・」

見せられた画面には流星からのメッセージ。

 

”今から行く”

”ここやんな?”

藤井流星が画像を送信しました”

送られてたのは店の場所の写真。

 

「望のやつと違う!」

「え!?」

確かに、違うとこから拾ってきた地図やからわからんかったけど、よく見たらさっきまで見てた地図と示す場所が違う。

ホンマにここか?と迷った場所が見事に逆になってる。

やっぱこっちじゃなかったんやん。

あいつら、もしかして・・・

 

「なんやねん、もう。」

頬を膨らます君はきっとあいつらの策略には気づいてない。

うん。

これは黙っとこう。

思い過ごしかもやし。

 

「いこ、シゲ。」

「あ、うん。」

もう少し君と2人きりでいたいと思ったけど、あいつらに仕組まれたと思うとそれも悔しくて。

複雑な心境に陥る。

 

「なぁ、」

「ん?」

「今度もっかいここ来たらアカン?」

「へ?」

でもそれは君の言葉で晴れる。

 

「いや、もうちょいシゲとおりたかったから。」

嘘。

この一言によって跡形もなく消えた。

 

「アカン・・・?」

このお願いを断れるヤツがいたら会ってみたい。

少なくとも俺は無理。

 

「んなわけないやん。」

だってその後に待つ最高の笑顔を知ってるから。

この笑顔さえあれば幸せ、って思えるような笑顔。

 

「よし、望たちのとこいこ!」

顔を少し赤くして照れてるのを隠すかのような笑顔。

その笑顔、絶対に離したらへんからな。

 

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(智洋Side)

 

望が送ってくれた地図はなんと、目的の店の地図とは全然違った。

わざとなんか、ホンマに間違えたんかはもう推測しいひん。

どっちであっても、ここにシゲと2人で来れたことに変わりはないから。

 

「これであいつら、先に食べとったらしばいたらなアカンな。」

「それはないやろ?」

ギュっと掴まれた左腕が熱い。

それに、その熱さを感じるとドキドキが加速する。

 

「いや、あいつらやとありえるで?」

「じゃ、そのときは俺もシゲと一緒にしばいたる!」

こんなアホな話をして歩く初めての道も。

 

「こっちの方は結構にぎやかやなぁ。」

「さっきのとことは大違いやね。」

遠回りしたけど、なんとかたどり着いたお店のショーウィンドウに映る君の笑顔も。

全部全部、絶対に忘れられへん、俺だけの宝物。

 

「あ、きたきた!」

「遅かったなぁ。」

店に入れば席にいる望と流星が見えた。

 

「ごめんなぁ。」

とりあえずは俺らのことを待ってたらしい。

俺は流星の隣、シゲは望の隣に座る。

流星と望が隣に座るとぎゅうぎゅうになるから、これは決まりみたいなもん。

 

「一応もう頼んだから。」

「ありがとう。」

「ちょっと望、こっち来い。」

シゲが座る前に望を連れ出した。

理由はわかるけど・・・。

 

「で、どうやった?」

「え?」

「2人で過ごす時間は。」

あぁ、やっぱり策略やったか・・・。

 

「どうやったと思う?」

まぁ、ええねんけど。

「そんな笑顔で聞き返されてもなぁ。」

こっちもそんなニヤニヤしながら聞かれても、やで?

 

「まぁ、幸せそうやったらええわ。」

ええ幸せでしたよ、そりゃあ。

ドキドキしすぎて寿命縮まった気がするくらい。

 

「で、どっちの案なん?」

「それはあっちに聞いて。」

ってことは望か。

 

「なんか気遣わせちゃったな。」

「もう、十分いつも惚気られてるので慣れたわ。」

「俺、そんな惚気てる?」

自覚症状はないに等しい。

 

「じゃあ、俺と神ちゃんのLINEの履歴、シゲに見せたろか?」

「いや、アカン!それはアカン!」

嘘。

あります。

十分すぎるくらいあります。

 

「ほら、そういうことやん。」

うん。

確かに流星にはいっぱいシゲのこと送ってる。

1人でドキドキしてたらホンマに寿命縮みそうやもん。

やから流星に送ってちょっと自分を落ち着かせてる。

つもり。

実際は落ち着いてんのかようわからん。

とにかく、そんなLINEを本人に見せるなんて、絶対にアカン!

恥ずかしすぎる!

 

「あ、望とシゲ戻ってきた。」

これ以上この話はできひん。

本人に聞かれたら元も子もないもん!

でも、シゲは望に何を言うてたんやろ・・・?

 

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(望Side)

 

「ちょっと望、こっち来い。」

店に来るなり、シゲに呼び出しを喰らう。

あれ、ちょっと怒ってる?

 

「なぁ、今日のどういうつもりなん?」

「何が?」

とりあえずしらを切る。

「地図。わざとやろ?」

無駄やったみたい。

 

「楽しめたやろ?」

「そういうことちゃうて!あのなぁ、」

でも楽しんだことは否定しいひん。

ということは楽しんでたわけで。

じゃあ、ええやん。

 

「望の案やろ?」

「へ?」

まさか、そこまで言い当てられるとは。

さすが長い付き合い。

 

「もうな、望の考えてることくらいわかるねん。神ちゃんはどうか知らんけど。」

神ちゃんはたぶんわかってない。

と思う。

俺、そんなわかりやすくしたつもりないし。

 

「俺、いろいろ心配してんで?」

珍しい。

シゲが心配なんて。

 

「店の時間大丈夫かな、とか。ホンマに迷子なったんちゃうかな、とか。」

普段絶対そんなこと考えへんくせに。

神ちゃんと一緒やったからかな?

 

「それやったら大丈夫。そもそもここの予約、言うてた時間とちゃうから。」

「はぁ?!」

「これ込みでこんくらいかなって時間に予約したから。2人とも知らんのにようぴったりくらいに来たなーと思って。」

「あぁ、もう!心配して損したわ。」

「やから純粋に楽しんでくれたらよかったのに。」

「十分楽しんだわ!なんなら次の約束もしたったわ!」

「え?!そうなん!?いついつ?」

そこまでしてたとは!

シャイボーイのくせに!

 

「・・・あぁ、言うんやなかった・・・」

なんや、シゲ案外やるやん!

いや、待てよ。

シゲからとは言うてへんか。

ま、どっちにしろようやった!

俺の作戦、成功ちやう?

 

「まぁええわ。戻ろ。」

「はーい。」

結局怒られた、っていうかええ報告聞けた感じ?

 

「あ、望とシゲ戻ってきた。」

神ちゃんと流星もなんか話してたんかな?

 

「流星も望に余計なことさせんといてや。」

「えぇ?でも楽しかったんやろ?」

「そやけど!」

「あ、シゲも否定せえへんねや。」

シゲも、っていうことはそういうことで。

流星の隣で神ちゃんが少し赤くなってる。

あぁ、これはまたシゲから惚気くるヤツ。

 

「ほら、早よ座り。もう来るで?」

照れ隠しのように言ってるのも確実にかわいい以外の何物でもなくて。

これが無意識って怖いよなぁ。

うん。

これは惚気られてもしゃあないか。

 

言うてる間に店員さんが頼んだものを運んできてくれた。

「うわっ!めっちゃうまそう・・・」

それはネットで見るなんかよりずっとおいしそう。

これが半額なんて!!!

なんてすばらしい・・・!!

 

「いただきまーす!!」

「うまっ!」

美味しいものを食べてるときほど幸せな時間ってないと思う。

 

「で?あの地図の先には何があったん?」

「え?流星知らんの?」

「望に任せきりやったもん。」

「あの先はなぁ、知る人ぞ知る名スポットやねんで!」

という家族情報。

 

「へぇー。確かにめっちゃ綺麗やったもんなぁ。」

もう、もはや神ちゃんも楽しんでたことを隠そうとはしてない。

ほら、俺やっぱええことしたって。

 

「いっぱいイルミネーションあったから、夜はもっと綺麗やと思うねん!やから今度は夜行きたいなぁ。」

あぁ、ほら。

神ちゃんってこういうとこ怖い。

絶対無意識やん。

夜行きたいって、もうさ・・・。

ほら、俺の隣のヤツ、絶対意識してるって。

まあ、これが神ちゃんのええとこやから誰も指摘しいひねんけど。

 

「じゃあ、今度はみんなで行く?」

それを知ってるのにそんなこと言う流星ってなかなかやんな。

「え、えっと・・・」

ほら、神ちゃん困ってるやん。

「嘘嘘。先にシゲと2人で行くんやろ?」

「な、!」

いや、めっちゃ驚いてるやん。

もうそれくらい誰でも予想がつくから!!

こう素直な反応しちゃうところも神ちゃんのええところ。

で、シゲから惚気られるポイント。

もう、最近のシゲとのLINE、神ちゃんのここがかわいい話しかない。

1回本人に見せてあげたいくらい。

そんなことしたら、神ちゃん顔真っ赤になるんやろうけど。

 

「ではここで、クリスマスっぽいことをします!」

俺の提案でプレゼント交換をすることになってる。

ちゃんと俺も持ってきたで?

 

「どうやってやるん?」

「じゃあ、じゃんけんしよ!」

「へ?」

「勝った人がプレゼントぐちゃぐちゃに混ぜるねん。で、残った人が後ろ向いて選ぶ。どう?」

「ええやん。簡単にできるし。」

さぁ、あの2人の間でプレゼント交換成立してくれたらええんやけどな・・・

 

「じゃんけんぽん!」

1番に勝ったのは・・・

「やった!はい、みんな後ろ向いてー。」

なんと俺!

 

とりあえず全員が机の上に出したプレゼントの順番をぐちゃぐちゃにする。

ここ、重要よな?

 

「はい、どうぞ!」

2番目は神ちゃん。

「じゃあ、1番右!」

「はーい。じゃ、次!」

3番目は流星。

「じゃ、俺真ん中で。」

「どうぞ。」

最後はシゲ。

「左!」

「ほい!」

うまいことみんな自分の以外のプレゼントが行き渡った。

 

「俺、シゲのやん・・・」

「えー、これ望のちゃうん?」

「ちょ、不安そうに言わんといてや!神ちゃんは?」

「流星の。」

「じゃあ、シゲが神ちゃんの?」

「うん。」

お! ちゃんとこの2人で成立してるやん?

 

「え、なにこれ・・・」

早速開けたシゲからのプレゼント。

これ、タオル・・・?

「何がええんかわからんかってんもん。とりあえず俺が使いたいやつまとめた!」

「俺、シゲほど汗かかへんねんけど!」

「でもちょっとええやつやで?!」

シゲらしいというか、なんというか・・・

 

「流星のおしゃれ!」

流星からのはネックレスやったらしい。

上手いことおしゃれ大好きな神ちゃんのとこに。

「ホンマ、シゲにいかんくてよかったわ。」

「それどういう意味やねん!」

いや、そのまんまの意味やと思いますけど。

 

「俺のどう?」

俺のプレゼントはタンブラー。

おしゃれなヤツな?

「ええんちゃう?シゲのよりマシやて。」

「なんで俺そんな下やねん!」 い

や、そりゃこれは俺の方が上やろ!

 

「で、神ちゃんは何あげたん?」

「シゲに聞いて。」

「これ、カメラ?」

シゲの手には小さいカメラ。

トイカメラっていうやつ。あんまええヤツちゃうからすぐ壊れちゃうかもやけど。」

1番センスがよかったのは神ちゃんかもな。

 

「じゃあ、これで1枚撮ろうや!」

「ほら、シゲ!自撮り!」

「はぁ?俺できひんて!」

「そやな。シゲの身長やと俺と望が入らへん。」

「うるさいなぁ。じゃあ、流星やってや!」

「はいよ。」

それですぐに承諾する流星は何者なのか、という質問は無視させてもらおう。

それもトイカメラやぞ?という意見とともに。

 

「いくで?はい、チーズ!」

 

写真にはなんとも楽しそうな姿が映っていた。

これからはこの2人でそういう写真、撮っていくんやろうな・・・。

 

「じゃ、帰ろか。」

いろいろあったけど、なんだかんだ楽しんでくれたしよかった。

あとはシゲからの惚気LINEを無視するだけ、か。

 

あぁ、俺も2人みたいに青春したいーーーーーーー!!!!!

 

 

Fin

KAT-TUN「僕なりの恋」@N×K

 

(淳太Side)

 

「久しぶりやなー。何年ぶりくらいや?」

 

「5年か、6年くらいですかね。」

 

「もうそんななるんかー。ま、勉強できるかわからんけど、ゆっくりしていきな。」

 

「ありがとうございます。」

 

医師資格の試験を終え、いよいよ研修に入る。

 

選んだ場所は叔父の勤める病院。

俺がこの仕事に憧れをもった場所。

 

どちらかというと田舎にある。

でも、医師不足の町ってわけじゃない。

むしろ各分野の専門家の先生たちが集まってる。

 

ここは、静かな町で療養しんとアカン人たちが集まる病院。

 

つまり、症状としては少し重い人が多い。

普通の病院じゃ診きれへん人たちがやってくる。

大人も、子どもも。

 

 

「あっくん!ばいばーい!」

「ばいばーい。」

 

広い院内の小児科と一般病棟を分ける場所で誰かが小さい子に手を振ってるのが見えた。

 

「あぁ、そうか。こいつも紹介したらんとな。」

 

そっちを見て叔父が言った。

 

「桐山君!」

小さい子に手を振っていたその人が振り返る。

「あ、先生!」

 

桐山君、と呼ばれたその人が俺とそんなに年も変わらんように見えた。

 

「こいつ、俺の甥っ子やねんけど、今日からしばらくこの病院で研修することになったから。」

 

一応小さくお辞儀する。

 

「桐山君とそんなに年も変わらんかったと思うし、仲良うしてあげて?」

 

「え、じゃあ、お医者さんじゃないですか!俺でええんですか?」

「ええのええの。桐山君はもはやうちのスタッフみたいなもんやねんから。」

 

いや、イマイチ2人の関係性が見えへんねんけど・・・

 

「あの・・・」

 

「あ、ごめんごめん。こっちは桐山君。ホンマは患者さんやねんけど、小児科におったときからここの子どもたちと仲良くてね。」

 

小児科から・・・ じゃあ、結構長いことおるんかな。

 

「資格は持ってないんやけど、子どもたちの面倒見てもらったりしてるねん。」

 

「どうも。」

「ど、どうも。」

 

確かに叔父と話す姿はとても人懐っこそうな感じがする。

でも、同時に何か影があるようにも感じた。

 

それは、長いことここにおる理由となる病気のせい・・・?

 

 笑うその人の姿からは病気なんて無縁のようにも思える。

でもここにいるってことはそういうこと。

 

「俺、日中はそんな症状出ないんで気にせんでええですよ。」

「え、あ、はい。」

 

心を読まれたかのように言われて驚いた。

 

「ホンマは退院してもええんやけど、ここもスタッフが足りんくてな。」

 

医師は十分にいるけど、1人1人にかける時間がここは他と違う。

 

「特に小児科は子どもに好かれてんとアカンから残ってもらってるんよ。」

子どもは先生の好き嫌いで態度も変わるやろう。

 

「ま、一応まだ名目は患者さんやけどね。」

「はぁ。」

納得できるような、できひんような。

 

「じゃ、桐山君、中案内しといてくれる?」

「え、俺ですか?」

「俺も忙しいから頼むわ。」

「はぁ、ええですよ。」

 

いや、待って、俺が分かってないって!

今日が初めましての人と2人きり?

 

俺、それに耐えれるほど高いコミュニケーション能力持ち合わせてないんやけど?

 

「あの、」

「あ、はい?」

「名前、何ていうんですか?」

 

そういえばさっき叔父は俺の甥っ子、としか紹介してへんかったっけ。

 

中間淳太、って言います。よろしくお願いします。」

「年は?先生が俺とあんま変わらんって言ってましたけど。」

「26歳です。」

「あ、ホンマに近い!俺、24です!」

 

嬉しそうに笑う姿はたった2つしか変わらんようには見えへんかった。

 

俺もよく年齢より若く見られるけど、この人ももっと若く見える。

いや、若くっていうか、幼く、か。

 

なんやろ、この笑顔のせいかな。

 

「俺のことはもう照史って呼び捨てでええですよ。俺はどうしようかな・・・中間さん?」

 

なんか、距離を近づけるのがうまいんか、下手なんかようわからんなぁ。

急にグッと来たと思ったら言葉遣いでぐーんって遠くになる。

敬語ってこんなに人と人の間に大きい距離を作るんやなぁ。

 

「別に2つしか違わんのやったら、敬語じゃなくてええよ。俺もしんどいし、呼び方も下の名前にしといて?」

「えー、じゃ、お言葉に甘えて。淳太君でどう?」

 

すぐお言葉に甘えちゃうとこを見ると、思ってることは一緒やったみたい。

 

「君もつけんでええよ?」

「だって、淳太!って感じより淳太君!って感じやもん。」

 

その感覚はようわからんけど、まあいいか。

皆呼び捨てやから逆に君づけで呼ばれることもないし。

 

「じゃ、案内してもらってもいい?」

「ええよ!どこからがいい?」

 

俺もちょっと努力して距離を縮めんとアカンな。

 

その日は広い院内を照史に案内してもらった。

 

チラチラ見える病室の機器たちは、どれも最新のもんばっかり。

改めてこの病院のすごさを感じさせられる。

 

でも、医者じゃない照史はもちろんそんなこと知らんわけで。

 

「あの機械、いっつもあそこにおんねん。」

「あれ使ってるのとか見たことない。」

「あっちのヤツ、ドラえもんに出てきそうやと思わん?」

まぁ、一応どれも使い方を知ってる俺からするとクスッと笑ってしまうような感想ばかりで。

 

「もう、笑わんとってやぁ。」

ちょっと拗ねた顔でこっちを見る。

「だって俺、あの機械たちの使い方とかちゃんと知ってるから。」

「じゃあ、あれは?」

「あれはな・・・」

 

医者じゃない照史に、医者でも難しいような機械のことを説明するのは結構難しい。

けど、それを真剣に聞いてくれる照史の視線は、なんか、引き込まれるもんがあった。

 

「淳太君、話すの上手やな?」

「へ?」

「俺、全然勉強とかしてへんけど、なんとなくわかった気するし。」

嘘なんか、ホンマなんかは分からへん。

でも、嬉しい。

 

「あ、いたいた。」

廊下の反対側から叔父が歩いてくるのが見えた。

 

「ごめん、1つ言い忘れてて。」

「どうしたんですか?」

「いや、2人、同じ部屋で寝てもらってええか?」

「え?」

 

同じ、部屋・・・?

 

「あ、俺寝てんの、病室ちゃうから安心してええよ。」

「え、いや、そういうことじゃなくて。」

患者扱いやのに病室で寝てないことも疑問やけど!

それよりなんで同じ部屋?

 

「そうそう。桐山君は隣の医者が寝泊まりする用の棟やから。どうせベッドは余るほどあるはずやし、よろしくな!」

すごく明るく言われる。

しかもそう言ってから叔父はどこかに行ってしまった。

 

「桐山君、起きたときに苦しそうにしてるかもしらんけど、なんとかしたってな。」

 

俺にしか聞こえん声で耳打ちしてから。

 

「じゃ、そっちも案内するな?」

 

朝起きたときに苦しそうにしてる?

一体照史は何の病気?

 

「淳太君?」

 

いや、今はとりあえず照史についていこう。

どうせ後々わかることなんやし。

 

「ううん、ごめん。行こか。」

 

 

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(照史Side)

 

新しく来た研修医さん。

いつもは年上のお兄さんって感じやったけど、ついに俺もそんなお兄さんと同じくらいの年になった。

 

小学生くらいからここに来て。

もう何年になるんやろう?

小児科にいる子たちも弟というには小さすぎる年になっていく。

 

ホンマは、俺もちゃんと働ける。

やから、ちゃんと働く場所を探さなアカンのやと思う。

 

でも、ずっとここにいた俺はあんまり勉強ができひん。

一応、義務教育分の勉強はやった。

でもそれ以降はやりたくなくてやめた。

 

理由?

 

理由は、1人でやってても楽しくないから。

それと、勉強する意味がわからんかったから。

 

勉強したって、いつまで使うんかわからんかった。

使える年までおれるのかがわからんかった。

 

これでもやりたい、なんて。

俺はそんなもの好きじゃない。

 

そんな俺を見かねて、ずっと担当してくれてた先生がここのスタッフとして働くことを提案してくれた。

 

俺はそれに甘えた。

 

小児科の子たちの面倒を見ること。

単純かもしれへん。

でも、確かに先生たちは忙しすぎてそんなことにまで手が回らんかったりしてた。

 

やから、これは勉強なんかよりも重要な仕事や、って思ってた。

 

いや、思ってたじゃない。

 

自分に言い聞かせてた。

 

それと同時に、これは甘えやってこともわかってた。

 

ちゃんと、わかってた。

 

でも甘えることをやめられへんかった。

 

小児科のスタッフとして働くことを提案されてから1年弱が経った。

 

そんなときにやってきた研修医さん。

研修医さんが来るのなんて、いつ振りやろ?

 

あの時はお兄さんって感じやったのに。

来てくれた研修医さんは俺と2つしか年が変わらへん。

 

一応敬語でしゃべらなアカンかな?とは思った。

思ってんで?

でもやっぱなんか距離ができるなぁって。

それに、この使ってる敬語が正しいんかもわからへん。

 

そしたら、そんなんせんくてええよって言ってもらえた。

やから、淳太君!って呼ぶことにした。

 

お互い敬語もやめた。

俺は淳太君、淳太君は照史って。

 

ここの人はみんな俺のこと、桐山君、とかあっくん、って呼ぶからなんか新鮮。

 

淳太君はすっごい優しい人やった。

 

だって、俺にあの機械たちのことを1つずつ説明してくれるねんで?

 

今まで、どれも何に使うんかわからんかった。

でも、淳太君のおかげでちょっとだけわかった気がする。

 

それに、同世代の人としゃべることがこんなに楽しいなんて知らんかった。

今までこの病院には同世代の人があんまりおらんかったから。

 

小さいときはおってんで?

でも、みんな退院したり、違う病院に行っちゃったり。

 

結局残ったのは俺だけ。

 

学校もろくに行けてへんから、ホンマに同世代の友達なんておらへん。

やから忘れてた。

 

こんな楽しいんや、ってこと。

 

そのうえ、先生が俺と淳太君は同じ部屋、なんて言うから。

 

まぁ、理由は俺を喜ばすためじゃないんやけど。

 

けど、それでも嬉しいもんは嬉しい。

 

どこか寂しかった毎日が変わる気がした。

 

早速淳太君を俺が寝泊まりしてる棟に連れて行った。

 

ここは交代で当直をしてる先生が寝泊まりするところ。

同時に研修医さんが寝泊まりするところでもある。

 

俺の家になったのはつい最近。

 

元々俺も一般病棟におったから。

でも、だんだん病室がいっぱいになってきたから症状に変化のない俺はこっちに移った。

 

もしなんかあっても誰かしら先生おるし。

今日からは淳太君もいるし。

俺なんかより必要となってる人が病室を使うべきやろ?

 

「ちょっと、ぼろいけど悪くはないやろ?」

「うん・・・」

 

返ってきたのは暗い返事。

 

理由は簡単。

 

2つあるベッドのうち、片方にある機械のせい。

あんだけいろんな機械の説明してくれた淳太君やから、もちろんこれのことも知ってるはず。

 

「大丈夫やで。これつけるの、寝るときだけやから。心配せんといて?」

「照史、何の病気なん?」

 

説明するのは難しい。

俺もよくわかってへんから。

ただ、治すのが難しいってことしかわからへん。

でも、すっごい簡単でいいなら言える。

 

「普通の人より、ちょっと肺が仕事さぼってるだけ。」

この答えに満足してくれる、なんて思ってない。

 

でも淳太君は優しい。

 

「なんかあったらちゃんと言うてや?」

 

これ以上のことは聞かへんから。

 

きっと俺が自分からしゃべるまで淳太君は聞かへん。

 

「・・うん。」

 

正直、研修医の淳太君にはあんまり迷惑はかけたくない。

でも、きっとかけざるを得なくなる。

 

「そや、秘密の場所連れてったる!」

 

それを気づかれたくなくて。

その現実から目をそらしたくて。

 

違う話に変えた。

 

「秘密の場所?」

 

淳太君は優しいから、気づいてても気づかへんフリをしてくれる。

でも、秘密の場所があるのは事実やで?

 

「来て!」

 

連れて行ったのは、この建物の屋上。

 

ホンマは立ち入り禁止の紙がドアに貼ってある。

でも鍵すらかかってへん。

貼り紙だけしかない。

こんなん、入って、って言ってるようなもんやん! ってことでここに来たのもつい最近。

 

そりゃ、疲れてる先生たちはわざわざ階段を上って屋上に来ることはない。

それに、ここに長いことおらんと、そもそもこの屋上の存在も知らんと思う。

 

俺がここを知ってたのは小さいときから見てたから。

あの上には何があるんやろう、って。

やから俺がここによく来てる、なんて知ってる人は誰もおらへん。

 

正真正銘、ここは俺の秘密の場所。

 

あるのはずっと手入れのされてなさそうなボロボロのベンチだけ。

 

あ、嘘。

 

何も邪魔することなく見える空もある。

 

「すっご・・・」

「やろ?」

 

そのボロボロのベンチに2人で座って空を見上げる。

 

「星が降ってるみたいなぁ。」

「淳太君、ポエマー?」

「ちゃうわ!」

 

こうやって屋上で誰かと笑う日が来るなんて考えてもみいひんかった。

ずっと1人やったから。

 

屋上に置きっぱなしにしてるスピーカーから音楽を流して、1人で空を見る。

それだけでもなんか、スーッて心が軽くなる気がする。

 

でも、今日は違う。

 

俺のため、じゃなくて淳太君のためになんか流そ。

淳太君は、静かなメロディーが合うかな?

 

「それ、ここに置きっぱなん?」

「うん。この箱の中やったら雨降っても濡れへんし。」

 

ちょっとごつめの箱からスピーカーを取り出す。

携帯とつなげば、あっという間に屋上が癒しの空間に変わっていく。

 

「いつもは何聞いてんの?」

「うーん、いろいろ?適当に聞いてる。」

「へぇー。」

「淳太君も音楽好きなん?」

「いや、相当流行ってる曲じゃないと知らんかなぁ。」

 

ずっと勉強ばっかしてて流行りに疎い感じのヤツかな?

俺とは正反対や。

 

勉強なんて1つもしてない。

その分、音楽とかテレビとか、いっぱい見たりした。

 

ホンマ、何してるんやろ、俺。

 

「それが照史のお気に入り?」

「いや、なんか淳太君に合ってるなーって思って。」

 

流れる曲は俺も好きなバラードで甘ーい恋の歌。

 

「へぇー、俺、照史ん中でこんなイメージ?」

「だって、さっきもポエマーやったやん。」

「だから、ちゃうって!」

 

星空の下で2人で笑い合う時間はすごい楽しかった。

 

この時間を永遠にしてほしい。

 

でも、そんなこと、俺にはできひん。

むしろ、俺に見える淳太君との未来の距離は3年後くらいまで。

 

俺にはずっと健康でいられるという保証がないから。

 

基本的な症状は変わらん。

でも、もし何か別の病気になったときはわからへん。

 

もしかしたら、明日にでもなってまうかも。

 

そしたらスタッフとしてもここにおれへんくなる。

 

それくらい、先は見えへん。 微かに光る明日という場所を頼りに過ごしてる。

 

俺も、もっと明るい光を見れるような体がよかった。

 

ちゃんと未来、って言葉が見えるような体がよかった。

もっとこの幸せが続くと保証できる体がよかった。

 

神様はいつだって平等なんてくれへん。

 

「それつけんの?」

部屋に戻っていつもと同じ寝る準備。

でも、それは淳太君にとったらいつも、なんてもんじゃない。

っていうか、俺以外の人にとったら明らかな非日常。

 

「うん。」

心配そうなその目に心が苦しくなる。

 

「でも、俺1人でつけれるから大丈夫やで?」

余計な心配はさせたくない。

 

そんな目、せんといて?

俺は大丈夫やから。

 

「それせんかったらしんどい?」

 

しんどいよ。

今は大丈夫でも、寝てる間にしんどくなる。

 

でも、そんなこと言えるわけがない。

 

「そやなぁ・・・。朝がちょっとしんどいかな。」

「そっか。」

 

きっと何の病気か言うてないから、探ってるんやろうな。

いや、もしかしたら淳太君やったらもうわかってるんかも。

 

そしたら俺がついてる嘘もバレバレやなぁ。

 

「ホンマにしんどかったら、ちゃんと言うんやで?」

 

ほら、やっぱり。

もうわかってるんや。

そりゃそうやんな。

淳太君は賢いんやもん。

 

俺とは違う。

 

「うん。ありがとう。」

 

俺はそれに甘えられるほど素直じゃない。

 

「おやすみ。」

「おやすみ。」

 

いつもは返ってこない言葉が今は1人じゃないと示してくれる。

 

それは、嬉しいこと。

自分が1人じゃないと実感できるから。

 

同時に、それは辛いこと。

自分が1人では決して生きていけないと実感させられるから。

 

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(淳太Side)

 

朝、目覚まし時計よりも早く目が覚める。

それはいつもと同じ。

 

違うのはこの場所と、隣で寝ている人。

 

それも普通の人じゃない。

 

鼻と口に酸素を送るマスクをしてる。

呼吸音もマスクを通すせいでこもった感じになってる。

 

昨日聞いてみたけど、難しい病気みたいで、本人にも説明しづらいみたい。

まあ、いろいろ考えてなんとなーくこれかな?っていうのは浮かんでるんやけど。

 

「RRRR・・・」

突然目覚まし時計が鳴り響く。

 

俺の時計はもう止めた。

鳴ったのは隣のベッドの時計。

 

「んっ・・・」

精一杯手を伸ばして時計を止めようとしてる。

でも微妙に届いてない。

 

やっとバンッ!て止めたと思ったらまた寝てしまった。

 

これは、このサイクルを繰り返さな起きれへんのか?

それとも単純に起きれへんのか?

 

初めての朝は戸惑うことだらけ。

 

そうしてる間に目覚ましが再び鳴り響く。

 

「んっ!・・・っ」

 

バンッ!て同じように止めたと思ったら今度は頭に手を当て始めた。

そして大きく深呼吸をし始める。

マスクから送られる酸素をしっかり吸うようにして。

何度かそれを繰り返す。

 

「桐山君、起きたときに苦しそうにしてるかもしらんけど、なんとかしたってな。」

昨日の叔父の声が浮かぶ。

 

こういうこと・・・?

 

「照史?」

 

やからって俺に何ができるのか、と問われれば何も言えへんけど、とりあえず声をかけてみた。

 

俺が声をかけると照史はゆっくりとマスクを外した。

 

「ごめん、起こした?」

「ううん。目覚ましより早よ起きてたから大丈夫。」

「よかった。」

 

でも照史の顔はよかった、なんて顔じゃない。

やっぱり少し苦しそう。

 

「照史、大丈夫?」

「うん。いつものことやし、気にせんといて?」

 

そんなこと言われても、気になるもんは気になる。

 

「しんどいん?」

「いや、ちょっと頭痛いだけ。すぐ治るし、大丈夫。」

 

ちょっとしつこかったかな?

でも、心配なもんは心配なんやもん。

 

ほら、またすぐにゆっくりと深呼吸し始めた。

 

やっぱり、照史の病気って、人より体内に酸素が少ない病気なんやろうな。

肺がサボってるっていうのは、肺が酸素を体内に取り込むのをサボってる、ってことやと思う。

やから寝るときはマスクまでして。

起きてるときはこうやって意識して深呼吸して。

少しでも多く体内に酸素が届くように。

 

「無理せんといてや?」

「淳太君、心配しすぎ。」

「でも、」

「俺、何年この体やと思ってんの?」

 

笑いながら言ってるけど、俺には笑ってるようになんて見えへん。

目の奥が笑ってない。

 

暗くて、陰ってる。

 

「ほら、早よいかな先生に怒られるんちゃうん?」

「あ、そや!」

 

その言葉で今の自分の状況を思い出す。

今日からは照史じゃなくて、現場の医師たちからいろいろと学ばなアカン。

 

今日から、怒涛の日々が始まる。

 

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(照史Side)

 

1人で寝てようと、隣のベッドで誰か寝てようと、朝がしんどいのは変わらへん。

マスクをつけてても軽い頭痛がする。

でも、起きてしっかり深呼吸すればマシになる。

 

もうこれは俺の朝の日課。

何年続けてるかなんて、考えるだけ無駄。

 

唯一心配点をあげるなら、この行動で隣の人の邪魔をしいひんか、ってこと。

 

特に研修医さんなんて毎日忙しいからゆっくり寝たいやろうし。

 

でも、淳太君はそんなタイプじゃなさそう。

俺が起きる前どころか、自分のセットした目覚ましより早く起きたらしい。

 

やからこそ、すっごい俺の心配をしてくれる。

嬉しいけど、それに素直になることができひんくて。

冷たい言葉を放ってしまった。

 

俺、ちゃんと笑えてたかな?

淳太君のこと傷つけてへんかな?

 

後悔ばかりが頭の中をぐるぐる回る。

 

「桐山君、おはよう。頭大丈夫?」

この建物の下は食堂になってる。

もうスタッフさんとも仲良くなった。

 

「あ、おはようございます。大丈夫ですよ!」

「よかった。じゃ、適当に朝ごはん食べといて。」

「はーい。」

 

ここのスタッフさんも俺の経過を確認する。

 

これが俺がここにおるための条件なんはわかってる。

でも、やっぱりどこか苦しくて。

 

そのあと、1人で食べることになるからなおさら考え込んでしまう。

 

先生たちはご飯の時間も不規則で、一緒になることはほとんどない。

淳太君もそうなるはず。

でも、それはみんながちゃんと働いてる証拠でもある。

働いてるから、忙しくて食べる時間がバラバラになる。

 

 

 

俺は?

 

 

 

俺は、逃げてる。

ずっと逃げてる。

 

また今日も、現実という大きな壁から目を背けて。

自分という大事なものから目をそらして。

このままじゃアカンことは分かってるのに。

それでも見ることができひん。

 

俺は、弱いから。

 

「あ、あっくん!おはよう!」

「おはよう。」

 

小児科の子たちと接しているとき。

それは俺が唯一、人の役に立ってると実感できるとき。

 

「あっくん、練習やろ!」

「もう先生回ってきた?」

「うん。もう大丈夫やで!」

 

もうすぐこの病院内でイベントがある。

 

普段は外に出れへん患者さんたちに少しでも明るい気持ちになってもらうために、って数年前から始まった。

 

基本は先生やスタッフの人たちが普段は違う科にいる先生と組んで何かをする。

歌ったり、劇をしたり、漫才をしたり。

 

毎年少しずつクオリティーは上がってて、すっかり患者さんたちの1年で1番の楽しみになった。

 

今年はそんなこのイベントに小児科の子たちとサプライズをしようという作戦。

そんなに難しいことはできひんから、歌を歌うことにした。

 

先生たちはもちろん知らん。

それどころか、これを知ってるのは俺と小児科の子たちだけ。

ホンマのホンマに内緒で進めてる極秘作戦や。

 

「じゃ、いくで?」

 

スマホを準備してそこから音を流す。

あんまり大きい音は出せへんけど、内緒の作戦やからこれで十分。

 

ここに練習しに来る子は毎回違う。

その日の体調に合わせて来るかどうか決めなさい、って言ったから。

やから、来てない子のことがちょっと心配になったりもする。

そういう子のとこにはあとで行ってあげたり。

 

それでもここに来てくれる子たちは少しずつうまくなってる。

指揮を振ってる俺も、だんだん楽しくなってきた。

 

「照史?」

その時、突然後ろから声がした。

 

「うわっ!やばい!」

「見つかっちゃう!」

 

慌ててスマホの音楽を止めて後ろを振り返った。

 

「なんや、淳太君か。」

「なんやってなんやねん。」

 

まあ、よう考えたら淳太君しか俺のこと照史、って呼ぶ人おらんわ。

 

「で、何してたん?」

「ダメ!これは内緒なの!」

 

子ども達が必死に止めてる。

 

「えー、お兄ちゃんにも教えてや?」

「ダメ!」

 

淳太君、子どもにも好かれるタイプなんかな・・・。

秘密を隠してるのが楽しいのもあるんやろうけど、みんなちょっと笑ってるし。

 

「淳太君、口堅い?」

「え?堅い方やと思うけど?」

「よし。みんな、淳太君も仲間や!」

「えー?」

「ええのー?」

「大丈夫。このお兄ちゃんおったらもっと練習しやすくなるから!」

 

淳太君は俺にはわからん先生たちの回診時間把握してるし。

先生が来るか来おへんかはいつもドキドキするから内通者がいた方がいい。

 

っていうのは建前で、俺が淳太君に隠し通せる自信がないっていうのが1番の理由なんやけど。

 

「何の話?」

淳太君にもざっと事情を説明する。

 

「なるほどね。」

淳太君もニヤニヤ。

 

「ええやん。楽しそうで。」

「淳太君も歌う?」

「え?俺?」

「ほら、歌ってや。」

「いや、俺はええわ。時間もあるし。」

 

若干目をそらされる。

 

「じゃ、頑張れ!」

「ばいばーい!」

 

子どもたちに見送られて淳太君は小児科を後にした。

逃げられたな。

ま、ええわ。

せっかく部屋も一緒なんやし。

そこで歌わせたろ!

で、一緒にサプライズ参加させるねん!

 

「よし、続きやろか!」

 

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(淳太Side)

 

「おはよう。」

「おはようございます。今日からよろしくお願いします。」

「じゃあ、まずはぐるっと一周しようか。」

 

院内は一応昨日照史にも案内してもらった。

でも今日は専門的なことを教えてもらいながら回る。

 

ここは何系の病気の患者さんがいるところ、とか。

ここはどういう手術をするときに使う、とか。

やっぱり現場の医師の先生とおらなわからんこともある。

 

「あ、ちょっとごめんね。」

突然案内をしてくれていた先生の電話が鳴った。

 

「少しだけ呼ばれたから、この辺好きに見といてもらえる?」

「あ、はい。わかりました。」

そういうとその先生は小走りで去って行ってしまった。

どうしよかな・・・。

 

「♪~♪~」

 

ん?

歌声?

 

隣の小児科の方から聞こえる。

 

ちらっと覗いてみると、そこには子どもたちを指揮しながら歌う照史がいた。

 

 

声をかけたら必要以上に驚かれた。

どうやらサプライズの準備中らしい。

院内の先生はもちろん、ほかの患者さんにも内緒。

このくらいの子たちには秘密、っていうだけで楽しいんやろな。

そんな秘密を照史が教えてくれたのは俺が先生たちの回診の時間を知ってるから。

 

うん。

サプライズされるほど関わってないし、都合ええもんな、俺。

 

「淳太君も歌う?」

でも、歌うのは勘弁!

とりあえずここのことはバレへんようにしたげるから!

 

「ばいばーい。」

小さい子たちに手を振って見送ってもらう。

後ろで不服そうな顔をする照史は無視。

 

それからしばらくして戻ってきてくれた先生に再び院内を案内してもらった。

 

「ここは・・・」

次々に施設についての説明を受ける。

もちろん、専門的な言葉がほとんど。

きっとすれ違う患者さんたちには何がなんやら、さっぱりわからんと思う。

数年前までの自分も、まったくわかってなかったけど。

 

幼いころに思い描いた、医師という夢。

ここに来た時に、人を助ける叔父がかっこよくて憧れた。

 

テレビアニメのヒーローなんかより、ずっとヒーローやった。

ただ、それだけ。

それだけの理由で憧れた。

 

やがて俺も周りを見て、現実を理解するようになった。

 

医師なんて、無謀や。

遠い夢で、手の届かん夢なんや。

そう思った。

 

でも、やっぱりどっかで幼いからの憧れのヒーロー像が残ってた。

 

俺もああなりたい。

あの時見た叔父のように人を助けたい。

そう思ってあきらめきれへん自分がいた。

やからその遠い夢に近づけるように、いっぱい勉強した。

 

おかげで今、ここにいる。

こうやって、専門用語ばっかりの説明もわかる。

医師という仕事に少しずつやけど、近づけてる。

 

でも、何かが足りひん。

俺にはまだそれを言い表す言葉すらわかってない。

 

この研修期間で俺に必要なこと。

それは足りない何かを探すこと。

それを表す明確な言葉を探すこと。

 

大丈夫。

絶対見つかる。

 

なんでかわからんけど、自信だけはあった。

 

同時に浮かんだのは、人懐っこいあの笑顔やった。

 

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(照史Side)

 

「ただいまー。」

「おかえり。」

「はぁー。」

 

ボフッと音を立ててベッドに倒れ込んだ淳太君。

お疲れモード全開。

まだ初日やのになぁ。

 

「あぁ・・・風呂入らな・・・」

呟いた言葉と行動は正反対。

 

「お疲れ様。」

どんなことをしてたんかなんて、俺には絶対にわからへん。

やから、話を聞くだけでもしたいな、って。

それで淳太君の疲れが少しでもとれてくれたらな。

 

「淳太君、どこの担当になったん?」

「とりあえず一般病棟かなぁ。」

「えー、小児科来てやー。」

「子どもの病気は難しいの多いからいきなりは無理やねんて。」

「そうなん?」

 

小児科は若い先生が少ない。

そうか。

子どもの方が難しい病気が多いからか。

 

「それに小児科は優秀な若手スタッフがおるから手が足りとるんやって。」

「・・・それ、俺?」

「以外に誰がおるん?」

まあ、今おる先生で俺の次に若い先生、俺の1回り上やしなぁ。

 

「照史も医療知識身につけたら立派にスタッフとして働けるで?」

優しい笑顔でこっちを見られる。

でもその口から出た言葉は今の俺には少し耳が痛い。

 

「俺はアホやから無理やわ。」

否定した言葉も淳太君には無意味らしい。

 

「俺はそうは思わんけどなぁ。」

 

その優しい笑顔も、そんなことを言われたら胸を突き刺す刃物のよう。

 

「ほら、淳太君、早よお風呂入ってきいや。」

「そやな。入ってくるわ。」

 

ちょっとでも淳太君の疲れをとれたら、と思ってたのに、これじゃ意味がない。

こんな冷たい言い方して。

さらに疲れさせてるみたいなもんやん。

 

俺、酷いヤツやな・・・。

 

「ごめん、淳太君。」

 

呟いた言葉は、本人には届かない。

 

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(淳太Side)

 

「俺、アホやから無理やわ。」

 

疲れて帰ってきた俺に優しく声をかけてくれた照史。

でも、俺の言葉をきっかけに表情が変わった。

声も、少し冷めた声になる。

 

あぁ、これが照史のコンプレックスみたいなやつかもしれんなぁ、なんて。

 

そりゃ、この仕事に知識は必要や。

でもそれ以上に必要なものもある。

 

小児科の子どもたちと一緒におる照史を見て思った。

こいつはすごい優しいヤツなんや、って。

いや、人にすごい優しくできるヤツなんや、って。

 

子どもたちが「あっくん!あっくん!」って慕ってた。

 

たとえ知識があっても、それはいつでもつけられる。

でも、こういう人望は天性的なもんで、ないヤツはずっとなかったりもする。

そんなヤツ、俺はいくらでも知ってる。

 

そいつらは大体実習で大きく心を折られて帰っていく。

逆に、それをすでに持ってるヤツは実習で大きく自信をつけて帰っていく。

 

照史は絶対に後者のタイプ。

ただ、本人に自信がないだけ。

 

もったいない。

せっかくの生まれつきの才能やのに。

 

あぁ、そうか。

俺に足りひんもんって、それか。

 

こんなに照史のあの笑顔が頭から離れへんのも、自分にはないもんやからかもしれへん。

 

うん。

絶対そう。

このままじゃ俺は前者のタイプになるもん。

 

あの人懐っこさ、どうやったら俺にも身につくんやろ・・・?

 

「淳太君、おやすみ。」

風呂から上がって部屋に戻ると、すぐに寝ようとした照史。

 

「なぁ、照史。」

でもそれはちょっと待って?

 

「ん・・・?」

もう眠そうな声。

 

「歌、楽しみにしてるな。」

でも、これだけは言っとかなアカンな、って。

 

これからもっと忙しくなる。

きっと寝る時間とかもバラバラになる。

そしたら、こうやって話す時間もなくなっちゃう。

 

「たまに聞きに来てや。」

「俺行ったらほかの先生も一緒やで?」

「あぁ、それはアカンなぁ。」

 

眠いんやろなって声。

でも真剣な顔してる。

その姿は子どもみたい。

 

もうさっきの冷たい声は見る影もない。

 

「じゃあ、本番までお預けか。」

「やから楽しみにしてる、って言うてんで?」

「んー、残念。」

「何が?」

「淳太君の歌聞きたかってんけどな。」

「歌わへんって言うたやん。」

「じゃあ、今でええから!」

「やから、歌わんって。」

「えー、聞いてるの、俺だけやで?」

「歌わんもんは歌わん。」

「お願い!」

「ほら、もう寝るで!」

「ちょ、淳太くーん・・・」

 

もう、昼で諦めてくれたと思ってたのに。

 

無理矢理電気を消して会話を終わらした。

まあ、ちょっと笑ってくれてたしええよな?

 

ただ、これは次に同じ時間に寝れるときにまた言われるヤツやな・・・。

俺、そんな歌うまないからなんとしても拒否しやんと。

 

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(照史Side)

 

「あっくん!早よやろー!」

「ちょっと待ってや?」

 

本番まで残りの日も少なくなってきた。

 

みんなそわそわしてる。

子どもにとって秘密、ってそんだけ楽しいもんなんやろうな、って思う。

 

でもそわそわしてるのは子どもたちだけじゃない。

先生たちも休憩時間中はそわそわ。

いつもとちゃうことをせなアカンから緊張してるんやと思う。

毎年のことやし。

でも、少しずつそのクオリティーは上がってて、お互いプレッシャーを与え続けてる感じ。

ベテランの先生ほど休憩時間に頭を悩ませてる。

 

そんな俺にもちょっとドキドキすることがある。

でも、それは本番への緊張感とは少し違うと思う。

 

「あ、淳太せんせー!!」

 

だって、それは淳太君を見たときにだけ感じるから。

 

「どう?うまいこといってる?」

自分が休憩になるとすぐにこっちに来てくれる。

 

「うん。めっちゃええ感じやで?」

嬉しいんやけど、ドキドキする心臓がうるさい。

このドキドキは淳太君に勘繰られたらアカンような気がする。

 

「あとちょっとやもんなぁ。」

やから俺は必死に隠す。

なんてことないよーって風にして。

 

ホンマは淳太君に少しでも早く会いたい。

少しでも長く一緒にいたい。

笑ってる姿が見たい。

1秒後に目の前で笑っててほしい。

 

やのに、ドキドキがそれをさせてくれへん。

邪魔ばっかりする。

 

「ちゃんと見に行ったるな?」

「・・うん。」

おかげで素っ気ない返事になってしまう。

 

淳太君、変に思ってたりしいひんかな・・・?

 

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(淳太Side)

 

もう少しで例のイベントになる。

先生たちも、毎晩いつもとは違う打ち合わせで残ってたりする。

そんだけ盛り上がるイベントなんやろうな。

俺は何もしいひんけど。

 

強いて言えば、照史が小児科の子たちと企んでるサプライズを知ってる。

知ってる、ってだけやけど、医師もスタッフも合わせて俺しか知らん。

それだけで少しテンションの上がる俺はまだ子どもやなぁ、なんて。

 

なんか、俺もサプライズの企画者になった気分。

まあ、毎回照史の誘いを断ってるけど。

 

ただ、1つ気になることがある。

 

「ちゃんと見に行ったるな。」

「・・うん。」

 

最近、照史の返事が素っ気ないことがある。

 

なんか、何かを隠してる、みたいな感じ。

 

もしかしたら体調がよくないんかと思って、いつも以上に注意深く見たりもした。

寝る前とか、朝起きるときとか。

 

でも、特にいつもと変わらへん。

しんどそうなときも、数回の深呼吸でもとに戻る。

日中も特にしんどそうにしてる、なんてことはなさそう。

それどころか、小児科の子どもを率先して企画を進行させてるし。

 

俺が知ってる照史は、ついこないだからの照史だけ。

それより前のことは1つも知らへん。

 

小児科の子どもたちと仲が良くて、先生たちからの信頼もあって、人当たりもいい。 すっごいええヤツ。

 

それだけはわかる。

でも、逆に言えばそれ以外は全然わからへん。

 

照史のことが全部知れたら。

 

そしたら、なんで今こうやって照史が俺に隠し事をしてるように感じるのかもわかるかもしれへん。

 

そう思って、何度か聞こうとした。

 

でも、時々見せる横顔に、俺は何も聞けへんくて。

 

しんどそう、とかそういうのじゃない。

何か、考え事をしてるみたいな顔。

それも深刻そうなこと。

 

言葉で聞きたいけど、なんか違う。

それに、何て話しかけてええのかわからへん。

 

その横顔を見せるときの照史は普段と雰囲気も違う。

 

まるで、俺には見えへん暗い遠くを見てるみたいに。

まるで、1人だけ全く別の場所にいるみたいに。

 

 

「淳太君?」

「ん?」

 

いつやったかな。

ある夜、照史が言った言葉。

 

「淳太君って、何か捨ててでもほしいもん、ある?」

 

なんでそんな質問をしたのかはわからへん。

ホンマに急すぎて。

でも、答えた。

 

「あるよ。」

 

「そっか。」

「照史は?」

「俺もある。」

 

そのまま何が?と続けることはできひんかった。

また、あの横顔を見せたから。

 

「俺な、淳太君来てからわかってん。」

「何が?」

「俺も、ちゃんとしやなアカンな、って。」

「俺、そんなちゃんとしてへんで?」

 

帰ってきたらまず最初に布団にダイブするし。

そこから動き出すまで長いし。 朝も用意に時間かかるし。

ちゃんとしてるとはちょっと遠い気がする。

 

でも、照史のいうちゃんと、は俺のちゃんと、とは違った。

 

「でも、淳太君はちゃんと夢、持ってるもん。」

 

「夢なぁ・・・」

 

確かに、俺にとって医師は夢やった。

でも今は違う。

これは近い現実。

叶えたい、っていうか、もう叶う予定のこと。

want toじゃなくてwillっていう感じ。

 

「俺は、そんなんないから。」

 

それが照史の欲しいもの、なんかな。

 

人間は不思議。

 

照史はこんなにも遠い場所にいるような横顔を見せるくせに、自分では未来という遠い場所が見えてないらしい。

見えてるのは自分の生きてることがちゃんと見える、近い現実だけ。

俺なんか、ついこないだまでその遠い場所しか見えてなかったのに。

 

一体照史には何年後の世界までが見えてるんやろう?

その瞳には今、何が映ってるんやろう?

これまで何を映してきたんやろう?

 

「ごめん、やっぱ今の忘れて?」

 

少し沈んだ空気を変えようとする。

でも、そんなこと言われて忘れられることなんてある?

 

「おやすみ!」

 

俺が返事をする前に照史は布団をかぶって俺に背中を向けてしまった。

そんなすぐに寝てるわけがない。

かといって何を言えばいいのか思いつかんくて、俺も布団をかぶった。

 

なあ、俺が何かを捨ててでも手に入れたいもの、わかる?

 

俺、照史のすべてが知りたい。

照史に出逢うまでを捨ててもいい。

まだ出会ってからそんなに時間もたってないのに、それくらい照史のことが知りたいねん。

 

照史は、俺のことどう思ってる?

 

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(照史Side)

 

「みんな、大丈夫?」

「うん。ばっちりやで!」

「しーっ!おっきい声出したらバレちゃう!」

 

ワイワイにぎやかな雰囲気の今日。

いよいよ本番。

 

何か披露しんとアカン先生たちはオタオタウロウロしてる。

いつもはしっかり者な人が多いだけに、ギャップを見れるのが楽しかったりする。

でもあんまり長いことも見てられへん。

今日はこっちにも準備がある。

 

というわけで始まる前に小児科に集まって最終確認。

 

「いよいよやな。」

「あ、淳太せんせー!」

「みんな、頑張ってや?」

「うん!」

すっかり子どもたちの人気者となった淳太せんせ。

 

「で、照史はどう?」

「とりあえず今はバレてへんことを祈るだけやな。」

「大丈夫やって。先生らのプライベート会話、9割9分今日の自分たちについてやから。」

 

それだけ今日は先生たちにとっても非日常であり、準備が必要であり、大変な日。

でも、それ以上に楽しい日。

 

「うわ、結構埋まってるやん。」

院内で1番広い場所に椅子を置いて簡単な特設ステージが組んである。

でも、すっかり席は患者さんたちで埋まってた。

 

「とりあえずこの辺おろか。」

しゃあなし、後ろの方に立っておくことにした。

 

「隣おってもええ?」

「あ、うん。」

 

俺らがサプライズをするのは最後の先生が終わってから。

司会の人が締めようとしたところに割り込む予定。

それまでは普通に先生たちのステージを楽しめばいい。

やのに、淳太君が隣にいるとあのドキドキが来て。

 

あぁー、もう!

全然集中できひん!

 

「あの先生、めっちゃ歌うまいねんな。」

「うん。」

ホンマはもっとしゃべれるのに。

また素っ気ない返事になる。

当然会話もそこでストップする。

 

それを何度も何度も繰り返す。

そうしてるうちに出番が近づく。

 

「照史、緊張してるん?」

全然会話してへんからか、淳太君に心配される。

「ちょっと。」

素直に違う、とは言えへんくて小さい嘘をついた。

 

ホンマはちゃうけど、今はそういうことにさせてもらってええよな?

 

どうせ、いや、そういうドキドキちゃうねん、なんて言ってもそれを説明する力は俺にない。

 

だって、このドキドキの理由は俺にもよくわかってないから。

 

「大丈夫。あんだけやっててんから上手くいくって!」

ドキドキを緊張やと思ってる淳太君が励ましてくれる。

 

「ありがとう。」

それでまたドキドキする。

でも、それを淳太君に言えるわけがない。

 

「ほら、もうちょいで終わっちゃう。」

司会の人がもう最後の先生たちの紹介を終わらせている。

あと数分もすれば俺らの番。

 

「頑張ってき!」

「うん。」

 

力強い励ましには力強い返事を。

今はただ、成功することだけを考えて。

 

「それでは、これで本日の・・ 「ちょっと待った!!!!」

 

滅多に出さない大きな声を出した。

一瞬フラッとしたけど、大きく深呼吸して耐える。

会場の視線が俺に集まる。

 

「いくで!みんな!」

俺の言葉を合図に子どもたちがステージの方へ移動する。

大人たちは目をぱちくりさせてる。

 

「これから私、桐山と小児科の子どもたちでシークレットステージをお届けします!」

司会の人からマイクを受け取って、ステージでしゃべる。

 

「日々の感謝を込めて歌います。聞いてください。」

ステージに音楽を流す機械と自分のスマホを繋いで音を流す。

 

静かに見守る大人たちのおかげで、歌声は想像以上に会場に響いた。

それが楽しくて、さらに大きな声で歌う。

目の前にいる子どもたちの顔もいつもより笑顔が多い。

今までにないくらい、楽しかった。

 

曲が終わって振り返ると、たくさんの大人が泣いていた。

 

「ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

俺の言葉に続いて、子どもたちもお礼を言い、お辞儀をする。

歌声の響き渡っていた会場には、拍手の音が響き渡った。

顔を上げると、多くの人が立って拍手をしてくれていた。

これが、スタンディングオベーション・・・。

 

「ありがとう!」

誰かが大きな声で言った。

それに続いていろんな人からのありがとうが聞こえた。

 

何に対してのありがとうか、と問われたら明確に答えることはできひんけど、なんか嬉しかった。

子どもたちも笑顔やった。

ステージに立つのがこんなに楽しいなんて、想像したこともなかった。

 

「よかったね、あっくん!」

「うん、今までで1番よかったわ。」

 

1人1人としゃべっているといろんな先生から声をかけられた。

 

「桐山君、やってくれるやんか。」

「あんなことしてたなんてなぁ。」

「いつの間に練習してたん?」

サプライズが成功したのも嬉しいけど、みんなが笑顔なんがすごく嬉しかった。

人生で感じたことないくらい幸せやった。

 

でも、声をかけてくれた人の中に淳太君はおらんくて。

 

それが少し、寂しかった。

喋ってたらドキドキするくせに、なんなんやろ、これ。

 

「照史、お疲れ!」

 

やっと淳太君が声をかけてくれたのは部屋に帰ってからやった。

 

「ありがとう。」

「あぁ、やっと言えたわ。あの場所、先生たち多すぎて声かけれんかってん。」

そう言って笑う淳太君を見てさっきまでの不安が消えていく。

 

「めっちゃよかったで?俺、まだ来てそんな経ってへんのに感動したわ。」

 

代わりにドキドキがくる。

面と向かって褒められたら余計に。

 

淳太君のその言葉は、誰の褒め言葉よりも嬉しくて。

ドキドキのせいかな?

 

「照史の歌声もちゃんと聞けたし。」

「え?」

「ん?」

いや、俺はそんなに大きい声では歌ってない。

息をたくさん使いすぎると頭がぼーっとするから。

そうなるのが怖くて、大きい声を出すのを避けてきた。

今日出したのだって、ホンマに久々やのに。

 

「俺の声、聞こえたん?」

「うん。」

「俺、そんな大きい声じゃなかったやろ?」

「でも照史の声、めっちゃ綺麗やし、子どもらより低いし、すぐにわかったで?」

目の前の淳太君は楽しそうに笑う。

俺の声が聞こえる、なんて言ってくれたの、淳太君だけやのに。

 

それが俺のドキドキを加速させた。

 

「俺、照史の歌声好きやわ。」

そんな風に褒めてくれるのも淳太君だけ。

 

どんどんドキドキは加速する。

 

「そや、俺だけになんか歌ってや?」

無邪気な笑顔で頼まれる。

「えー、」

口では嫌がるフリ。

でも、心ではすごい嬉しくて。

 

「アカン?」

「んー、淳太君が歌ってくれたら?」

「あー、それはアカンなぁ。」

「なんで?ええやん!」

「アカン!あんな照史の歌声聞いたら余計にアカンわ!」

「歌ってやー!」

加速したドキドキはやがて違う想いに変わっていった。

 

このままずっと笑っている淳太君の顔が見ていたい、と。

このままずっと2人で笑い合っていたい、と。

 

この気持ちを何て言えばいいのかなんて、やっぱりわからへん。

ただ、俺の心を今までに感じたことないような幸せな気持ちが満たしていった。

 

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(淳太Side)

 

年を重ねるたびに、月日が過ぎるのが早く感じる。

小さいころはもっと1日が長かったのに。

今じゃ、あんなに長いと思ってた研修期間でさえ、こんなに短く感じる。

 

でも、短い中にもいろんなことがあって。

俺の中でもいろんなことが変わった。

 

もちろん、夢から近い将来へと変わりかけていた医師という仕事との距離も変わった。

今じゃもう目の前にあるようなもん。

 

でも、もう1つ。

 

照史のことを知りたいと思ったあの気持ちも変わった。

照史のことが好きなんや、という気持ちに。

 

できるなら、ずっとこのまま照史のそばにいたい。

俺についてきてくれへん?って言いたい。

でも、まだ1人前にもなれてへん俺にそんなことを言う資格はない。

 

目の前にあるその場所に行くだけじゃ足りひん。

そこで、1人前になって歩けるようにならんと。

それにはまだ、時間がかかる。

その間、きっと照史と一緒におっても迷惑をかけることしかできひん。

 

照史にとったら、今のこの環境の整った場所にいるのが1番やと思う。

俺は照史と一緒にいたい。

でも、それ以上に照史に必要以上の負担をかけたくない。

 

「淳太君?」

「ん?どうした?」

「いや、なんかぼーっとしてるなぁ、と思って。」

素っ気なかった態度は少しずつ元に戻ってきた。

やっぱ、あのときは本番前で緊張してたんかな?

それとも別の理由があった、とか?

 

・・・ってのは俺の願望やな。

 

「ここで淳太君と一緒に寝るのも、あとちょっとやね。」

「そうやな。」

そんな、寂しそうな声で言わんといてや。

まだここにいたい気持ちが強くなってまう。

照史と一緒にいたい気持ちが溢れそうになってまう。

 

「俺さ、淳太君がこのタイミングで来てくれてよかった。」

「へ?」

「だって、このタイミングだけやん?研修医で来る人が俺と同世代なのは。」

 

ここはそもそもわざわざ研修に来る人が少ない。

ここには少し重めの病気の患者さんが多いから。

俺がここに来たのだって、叔父がいたから。

じゃなかったらたぶん、ここには来てない。

 

つまり、ここに来るのは何か理由があるか、よっぽどの物好きだけ。

 

「淳太君のおかげで、自分はこのままじゃアカンなって思えてん。」

前にもこんな感じのこと言ってたな。

 

「照史はそんなに今の自分が嫌い?」

「うん・・・。」

何か、後に言葉が続きそうやった。

でも、照史の口からはそれ場何も出てこおへかった。

代わりに、俺が言葉を繋いだ。

 

「俺は、今の照史も好きやで?」

うつむいていた照史が俺の目を見る。

 

「人当たりがよくて、子どもにも好かれてて、ずっと笑顔な照史が。」

 

告白に近い言葉。

照史にはどう伝わったんやろう?

 

面と向かって話すと相手の反応が見れるからいい、なんて誰が言い出したんやろう。

そんなん見ても、どう伝わったかなんてわかるわけがない。

 

「ほら、もう寝るで?」

「あ、うん。」

返事が返ってくるのが怖くて、無理矢理話を終わらせた。

 

そんなん返事なんて来たら俺、どうにかなっちゃいそうやもん。

布団をかぶって、ただひたすら寝よう寝ようと思い続ける。

そういうときほど寝れへんのはなんでや?

 

むしろ俺の中では照史と離れたくないという気持ちがさらに膨らんでる。

これ以上溢れ出えへんようにするのが精一杯。

これ以上伝えてしまったら、この関係はどうなる?

それが怖くて、今はただ、一方的に片想いで終わらせることにした。

 

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(照史Side)

 

どうして、未来、ってのはずっと先やと思ってたときはすぐに来て、 すぐに来てほしいときはなかなかきいひんようになってるんやろう?

 

小さいころ思い描いていたような大人にはなかなかなれへんのに、もうすぐ淳太君はここから出て行ってしまう。

 

ほら、またずっと続いてほしかった時間を終わりにする。

来てほしい夢はその影すら見えへんのに。

 

未来という言葉は、残酷や。

簡単に人の願いを裏切ってしまう。

 

今も、今までも。

 

何度も何度も裏切られた。

自分も、周りにいる人も。

この言葉に、何度も。

 

1番残酷なのは、止まることを知らない、ということ。

ゆっくり時を止めて涙を流したいときもあるのに、それを許してくれへんそういうときほど、時計の針を早く進めていく。

一瞬で過ぎ去るその時間をゆっくりしたいと願うのは、これで何回目なんやろう?

せめて、こうやって君のことを見つめる時間だけでも、その願いを叶えてほしい。

 

「淳太君?」

「ん?どうした?」

そんな想いを込めて話しかける。

 

君と話せば少しでも一瞬で過ぎ去る時計の針を止めれる気がして。

少しでもゆっくりにすることができる気がして。

僅かな望みをかけてみる。

 

「ううん。なんかぼーっとしてるな、って思っただけ。」

でも、それをあのドキドキが邪魔する。

話しかけたいのに、ドキドキがうるさくて。

ドキドキが伝わりそうで。

会話はすぐに止まってしまう。

 

さりげなく。

さりげなーく先生に聞いてみた。

 

「先生、誰かとしゃべっててドキドキするんって、変?」

「どういうこと?」

「例えばな?例えば、他の人と2人で話してても何にもないのに、ある人と話すときだけドキドキするねん。これ、変?」

すると先生はニヤニヤしながら言った。

 

「それは、その人を好きってことちゃう?」

「好き・・・」

確かに、淳太君のことを嫌いなんて思ったことない。

でも、そんなこと言うたら、先生のことも嫌いになったことなんてない。

 

「そう。それは、その人に恋してる、っていうねん。」

 

恋・・・。

 

さすがにその言葉を知らんほどアホじゃない。

でも、それは今まで同世代の人に出会うことの方が少なかった俺にはその言葉の意味はちゃんと理解できてない。

 

ずっとその笑ってる顔を見ていたいと思ったり。

目が合うだけで、しゃべるだけでドキドキしたり。

自分の中では忙しく感情が動くのに、それを相手には伝わってほしくないと思ったり。

矛盾する感情が同時にある不思議な感情。

 

これが、恋。

 

でも、やっぱりそれは淳太君には知られたらアカンような気がして、必死に隠してた。

伝えたいけど、伝えたらどうなるかわからへん。

もっと人間経験が豊富やったら、わかったんかな。

 

もし、今の関係が粉々に壊れてしまったら?

もし、もう2度と今の関係に戻れへんくなったら?

 

そんなん、絶対に嫌や。

絶対に避けたい。

やから、ただ、俺の中に淳太君との時間が刻まれるようにしたかった。

淳太君の中にこの時間が刻まれるようにしたかった。

 

「ここで淳太君と一緒に寝るのも、あとちょっとやね。」

「そやな。」

 

少しでもたくさんしゃべろうと思うけど、出てくるんは淳太君から離れたくないという想いのにじみ出た言葉ばっかり。

このままじゃ、離れんといて、と言ってしまいそう。

 

「俺さ、淳太君がこのタイミングで来てくれてよかった。」

「へ?」

やから、頑張って明るい言葉も伝える。

「だって、このタイミングだけやん?研修医で来る人が俺と同世代なのは。」

 

何年かに1度来る研修医の人。

淳太君の前はいつやっけ?

淳太君が出て行ったら、次に人が来るのは何年後になるんやろう?

 

「淳太君のおかげで、自分はこのままじゃアカンなって思えてん。」

きっともう、同世代の人が目の前で頑張る姿を見ることはない。

これが最後やと思う。

そう思うと、俺も頑張らなアカンと思えた。

 

「照史はそんなに今の自分が嫌い?」

目の合った淳太君から優しく問いかけられる。

「うん・・・。」

でも、俺の答えはその優しさとは正反対。

やから、思わず目線をそらした。

 

ずっと自分の体を言い訳にして逃げてきた自分なんて大嫌いや。

それをわかってて、やのに甘えてる自分はもっと嫌いや。

 

続けたかった言葉は、俺の口から出ることはなかった。

 

「俺は、今の照史も好きやで?」

突如告げられた言葉に思わず顔を上げた。

 

「人当たりがよくて、子どもに好かれてて、ずっと笑顔な照史が。」

淳太君の顔はめっちゃ優しかった。

そんな優しい顔で、声で言われて嬉しくないわけがない。

 

「ほら、もう寝るで?」

「あ、うん。」

淳太君が電気を消して布団をかぶる。

俺も布団にもぐる。

離れてるはずやのに、ドキドキの音が淳太君にまで聞こえるんちゃうか、っていうくらい大きくなる。

 

俺だって、淳太君のこと・・・

 

って言えたらよかったのに。

やっぱり、出てきそうな言葉をそのまま口に出すことはできひんかった。

 

今の俺は、自分の気持ちを伝えることよりも、この関係のままでいたいという想いの方が強かった。

この関係を崩したくなかった。

俺は、そんな臆病者な自分が、

 

大嫌いや。

 

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(淳太Side)

 

「中間君、研修、お疲れさまでした!乾杯!」

 

ついにこの日になった。

俺のために、と開いてくれた送別会。

もちろん、みんなまだ仕事があるからすぐに戻れるように食堂で開いてもらった。

今は当番に当たってない先生たちがいてくれてる。

 

俺を囲んでくれてる先生たちも、長い勤務時間を終えた後やのに、残ってくれて。

ありがたすぎる。

でも、俺が1番いてほしい人の姿はない。

これは俺が先生たちとお別れする場やから、って遠慮したらしい。

 

今頃、部屋におんのかな。

そんな遠慮、いらんのに。

どうせ、この会もそんなに長くはできひん。

中にはこの後から仕事の先生もおる。

やから、全員に挨拶をし終わったらほぼお開き状態。

 

「今日まで、本当にありがとうございました。ここでの経験をしっかり活かせるようにします。」

俺から挨拶をし終えて、しばらくすると食堂に人がほぼおらんくなった。

俺も部屋に戻る。

 

でも、部屋は真っ暗で。

人がいる気配もない。

 

「照史?」

 

案の定返事もない。

どこ行ったんやろ・・・

 

もう小児科は入れへん時間のはず。

食堂からここまでの道も一本道やからすれ違いになることもない。

そもそも基本的に外に出る用事なんてないはず。

 

じゃあ、あと照史が行きそうなところなんて、1つだけしかない。

 

「照史ー?」

 

ここに来た最初の日、楽しそうに案内してくれたこの場所。

少し古い扉を開けば、そこにいた見慣れた後ろ姿が俺の声にびくっと体を震わせた。

 

「部屋おらんからどうしたんかと思ったわ。」

ボロボロのベンチに座る君の隣に腰掛ける。

 

「ごめん。」

小さく笑う。

でも、それは自分の感情を隠そうとしてるようにしか見えへん。

 

「懐かしいな。最初の日、照史が楽しそうにここ連れてきてくれたん、覚えてる?」

「当たり前やん。」

あれから何度かここには来たけど、やっぱりあの日は忘れられへん。

初めて眺めた星のヒカリがあまりにも綺麗すぎたから。

星のヒカリを眺める照史の横顔が綺麗すぎたから。

 

あの日から、いろんなことが変わった。

でも、この2つだけはずっと変わらへん。

ずっと一緒。

俺が歩くこの道を照らし続けてくれてる。

 

「あのさ、」

あんまり長いこと話してても意味がないと思ったから、要件を切り出した。

「これ、受け取ってくれへん?」

「え?」

 

手渡したのは1通の手紙。

部屋に置くのもありやけど、やっぱり直接渡したくて。

「じゃ、もう行くわ。」

 

「あ、」

小さく照史が漏らした声を無視して屋上からの階段を下りた。

目の前で読まれたら、照れ臭いやん。

 

部屋に戻って、自分の荷物を持って出る。

駅まではそんなに距離はない。

ただ、電車がなかなか来いひん。

田舎やもん。

時刻表を確認すれば、もう次の電車が最終電車やった。

 

来た時も思ったけど、本数、すくなっ!

ちょっと肌寒いけど、戻ってる時間はない。

しゃあないから、駅のベンチに座って電車を待つことにした。

 

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(照史Side)

 

無情な未来は、簡単にその時間を進めていく。

 

今日は、淳太君がここから出て行っちゃう日。

寂しすぎてどうにかなりそうやったから、送別会には参加しやんかった。

それに、あれは淳太君が先生たちとお別れする場所やから、邪魔するのも違う。

やから、部屋でじっとしとこうと思った。

でも、部屋で片付けられた淳太君の荷物を見るのも嫌やった。

 

たどり着いたのは、この屋上。

かといって、何もすることはない。

スピーカーをつけても、流れる曲には淳太君との想い出しかない。

何をしても寂しくなるのに変わりはない。

 

あぁ、俺、ホンマに明日から生きていけるんかな。

真剣に考えてしまうくらい、俺の中で淳太君という存在は大きかった。

 

「照史ー?」

突然、後ろから聞こえるはずのない声が聞こえた。

でも、それは幻聴じゃない。

 

「部屋おらんからどうしたんかと思ったわ。」

隣に座ったのは、紛れもなく淳太君。

会いたくて、会いたくて、仕方なかった淳太君。

今、1番会いたくなかった淳太君。

 

「ごめん。」

複雑な心を隠すように笑う。

 

「懐かしいな。」

もちろん、淳太君はそれをわかってると思う。

でも、あえて話をそらしてくれた。

 

「最初の日、照史が楽しそうにここに連れてきてくれたの覚えてる?」

「当たり前やん。」

忘れられるわけがない。

俺の中の、いろんなものを変えてしまった淳太君と初めて会った日のことなんて。

 

星が降ってるみたい、なんて言ったポエマーな部分も。

あの時の笑顔も。

俺はきっと、ずっとずっと忘れへん。

 

「あのさ、」

途切れた会話をもう1度始めるのはいつも淳太君。

「これ、受け取ってくれへん?」

「え?」

でも、それももう終わりやというように渡された1通の手紙。

 

時間が、止まった気がした。

 

「じゃ、もう行くわ。」

その声すら、耳に入らないほどに。

 

気づいた時には淳太君は隣におらんかった。

 

「あ、」

急いで振り返ったけど、淳太君はそのまま屋上から出て行ってしまった。

俺は追いかけようとした。

 

でも、俺の足は動かんかった。

代わりに、急いで手紙の封を開けていた。

 

”照史へ”

綺麗な字やな。

そういえば、淳太君の字なんて、ちゃんと見たことなかったっけ。

 

”ここに来てから、今日という日まで、俺はあっという間に過ぎてしまったと思ってます。

照史はどうかな?”

俺もそう思ってるよ。

 

”ここには、医師になるという自分の夢のために来ました。

でも、それ以外のこともたくさん学びました。

特に照史から。”

俺から?

淳太君は俺よりもずっとずっとよくできるのに。

そんな人が俺から何かを学べるようなこと、したかな・・・?

 

”照史は俺が今まで出会った同世代のやつらの中で、1番優しい心を持ってます。

人から好かれる力を持ってます。

人を幸せにする笑顔を持ってます。

どれも、俺にはないことです。

そして、それは天性のものです。”

えらい褒めてくれてるけど、それは嘘。

俺は知ってる。

淳太君の周りにいる人がいつも笑顔なこと。

淳太君の方が人を幸せにする笑顔を持ってること。

俺はその笑顔を見るのが何よりも幸せやのに。

 

”何度もそんな照史のことがうらやましいと思いました。

俺にもその力があったら、と思いました。”

どれだけ俺のこと、褒めるつもりやねん。

なんか、照れ臭い。

 

”でも、だんだん違う想いを照史に抱いていました。”

違う、想い・・・

 

”俺は、照史のことが好きです。

1人の人として、好きです。”

自然と手に力が入る。

 

”本当は今日が終わっても一緒にいたいです。

でも、俺にはまだ照史を幸せにする力はありません。

辛い思いをさせるなら、一緒に過ごせない方が随分とマシです。

やから少しの間だけ、時間を下さい。

照史を幸せにできるようになったら、もう1度ここに来ます。

やから、サヨナラは言いません。

 

ありがとう。

 

淳太”

 

1つだけ、淳太君の嫌いなところを見つけた。

自分だけ一方的に想いを伝えてしまうところ。

俺の気持ちも知らんくせに。

 

淳太君がこんなに自分の想いを勝手に伝えるんやったら、俺も淳太君に伝えやなアカン。

 

急いで部屋に戻った。

机の上に置きっぱなしになってたものを取って、駅へと走る。

そんなに距離はないはず。

 

それでも、体の中の空気をうまく入れ替えられへん俺の体はすぐに苦しくなる。

でも、ここで立ち止まったらアカン。

今、淳太君に伝えやな。

必死で走った。

 

「淳太君!!!!」

 

駅の改札の少し手前。

大きな声を出す。

きっと無人の駅やから聞こえてるはず。

 

でも、そのとき、目の前がグラッと揺れた。

 

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(淳太Side)

 

電車、全然きいひん。

せめてあったかい待合室でもあったらなぁ・・・

さっきからずっと同じことを考えてる。

すると突然、名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「淳太君!!!」

それだけでわかる。

照史の声や。

 

どうせ無人改札の駅やし、出て、もっかい入ってもバレへん。

急いで改札の外に出た。

そこには息を切らして座り込む照史がいた。

 

「照史?!お前、何してんねん!」

 

病院から走ってきたに違いない。

病院からこの駅までは普通の人でも走れば息切れするような距離。

それを照史が走ったらどうなるか。

それくらい、照史自身が1番わかってるはずやのに。

 

「ごめ、俺、」

「アホ!とりあえず深呼吸しろって。」

大きく息を吸って、吐いてを繰り返させる。

数回それを繰り返すと、照史の体も落ち着いてきたらしい。

 

「大丈夫か?」

「うん。ごめん。」

「びっくりさせんなや。で?どうしたん?」

聞かんくても、なんとなく照史が来た理由は分かる。

 

「淳太君、これ、」

ほら。 やっぱり。

照史が差し出したのは俺がさっき渡した手紙。

 

「もう読んだん?」

「うん。」

じゃあ、俺の告白も、読んだんやな。

 

「ごめんな。迷惑やったよな?」

「ちゃう!俺は、言い逃げせんといてって言いに来てん。」

「言い逃げ?」

「俺も・・・俺も淳太君のことが好きや。」

涙目になりながらこっちをじっと見つめる。

 

「やのに、淳太君だけ俺に伝えて。俺には何も伝えさせてくれへんとか、ずるいやん。そんなん、言い逃げもええとこや!」

「嘘・・・」

「嘘なんか言わへん!俺も、淳太君が好きやの!」

 

放たれた言葉はにわかに信じがたい言葉で。

でも、嬉しくて。

夢みたいで。

何も言葉が出てこおへんくなった。

 

「でも、淳太君が思ってる以上に、俺は淳太君にいろいろ迷惑かけちゃうから。」

急に寂しそうな顔をする。

 

「そんなことない。俺は照史が隣におってくれるだけで十分嬉しいねんで?」

「でも、」

「ええの。今ので安心した。照史も俺と同じってわかって。」

照史も俺のことを想ってくれてた。

もう、それだけで十分。

それ以上なんてない。

 

「淳太君、」

 

遠くで踏切の鳴る音がした。

もうすぐ、電車が来る。

 

「じゃ、もうホンマに行かんとアカンから。」

やから、立ち上がろうとした。

でも、その手を引かれて、照史にぎゅっと抱きしめられた。

 

「照史?」

「俺、ちゃんと淳太君が迎えに来てくれた時に役に立ちたい。」

顔は見えんけど、いつもと違う声やった。

何か、力強いものを感じさせるような、そんな声。

 

「ホンマは、俺から淳太君のとこに驚かせに行きたかったけど、淳太君があんなこと言うから俺も先に言う。」

そう言うと腕を離して地面に置いていた何かを取り出した。

 

「教科書・・・?」

「俺、もっかいちゃんと勉強する。淳太君の隣で、淳太君と一緒に仕事ができるようになる。」

教科書を掴む手に力が入った。

 

「俺も、淳太君みたいに、夢、追いかけてみる。」

 

その教科書は、高校生用のものやけど、照史ならホンマにその夢を実現してしまう気がした。

 

それが夢である期間はきっとそんなにない。

すぐに現実になるに決まってる。

照史やもん。

照史には天性のもんがある。

絶対大丈夫。

 

電車のライトが線路を照らした。

 

「じゃ、今度迎えに来るとき、楽しみにしとくな?」

「びっくりさせたるわ。」

照史が笑った。

その笑顔は、もう俺のもの。

絶対になくしたりなんかしいひん。

約束する。

 

だから、どうか。

 

「じゃあな。」

 

どうか、俺の夢が現実になっていますように。

 

俺の隣で、照史が笑っていますように。

 

 

Fin